小説 | ナノ


  かごをこわすひと[差分]


 自分が満足すると気を失った彼を俺に預けて、神官殿はさっさと帰って行った。今日の後処理は俺がやれってことだろう。
 

 俺も服を脱いで、湯に彼の体を抱きかかえたまま沈んでいく。張られた透明な湯に汚れが解けていって、あっという間に白く濁った。今回は顔も汚してしまったから綺麗に拭っていく。白くなっていた彼の肌が温められて血の気が戻っていく。
 湯に浮かぶ彼の手に指を絡めて引き寄せた。力なく無防備にさらされる彼の裸体は扇情的だ。艶やかで滑らかな素肌は見るものを引きつける。白い肌に残る赤い痣は所有者の証だ。
  後肛に指をさしいれれば、腕の中の彼が小さく呻いた。中でかき混ぜるように指を動かせば、白濁が溢れて湯に溶けていく。十分に熟れ、男を咥えこむようになったソコは本人の意識がない今も、熱くうごめいている。
「……う、ぁ……」
「アリババ殿」
 そうだ。今日はまだ彼の奥に身を埋めていない。
 口の中も熱くて良かったけれど、一体感には欠けていて物足りなく俺は感じていた。彼のイイ所を探りながら、内側の白濁を掻きだしていると、彼と身を繋げたい誘惑に強く駆られていく。
――彼が欲しい。
 そうハッキリと自分の欲求を自覚して、俺は彼の体を抱え直した。

「アリババ殿。起きて下さい」
 軽く頬を叩けば、うっすらと彼が目を開けた。
 その瞬間をねらって、埋めた指で内側のしこりを擦り上げれば、彼は目を見開いて背を弓なりに反らせ宙を仰ぐ。帰ってきた反応に俺は口元を歪めて哂った。
「アリババ殿」
 低い声で彼の名を呼ぶ。指を抜いて、代わりに自身をあてがった。先刻まで男を受け入れていた場所は、何の抵抗もなく俺を咥えこんだ。その温かさ、柔らかさ、締め付けに、充足感で胸が満たされていく。
 声もなくアリババ殿が腕の中であえぐ。声も聞きたいのに、枯れてしまったんだろうか。腰を揺らせば彼も感じてビクリビクリと体を震わせる。その度に内側も収縮して、程よい刺激に息が漏れた。

 体を貪られ続けて、彼の瞳はどんよりと曇っている。夢に落ちていた所を現実に戻されて、また体を貪られて、快楽に落とされて。思考などまとめることもできないだろう。ここに来た時に比べ、淫らな体になってしまった自分をアリババ殿はどう思っているのだろうか。



-------------------------------------------------------






 扉をあけると明かりもついていない部屋は暗かった。けれども、部屋の中で誰も寝てはいない。唯一部屋にいた人はベッドの上に腰をかけて、眠らず窓の外を眺めている。
「……アリババさん」
「モルジアナ?」
 声をかけるとゆっくりと彼が振り返った。その表情には何も感情が映っていなくて、見ているだけで胸が苦しくなる。
 宿に連れ帰ったアリババさんが昼前に目を覚ました時、彼が取り乱すことはなかった。その代わり、感情が彼からは抜け落ちていたようだった。笑顔で私を呼んでくれるアリババさんはいなかった。まだ思考が混乱しているのかもしれない。そう思った私は先にやるべきことを考えその結果、彼を一人宿に残して、金属器の奪還を決意した。
「アモンの剣、取り返してきました」
 鞘に納められた剣を彼の前に差し出す。彼が持っているべき、宝剣を。
 その剣をぼんやりと眺めていた彼が、驚いたように目を見開いた。立ちあがって、私に詰め寄ってきた。
「っ!? 大丈夫か!?」
「?」
「怪我はないか!? なんでそんな危ないことを一人で!」
 心配するように腕に触れられた。彼の手はどこか冷たい。
「アリババさん」
 その手に自分の手を重ねて、私は微笑んだ。
「大丈夫です。私はどこも怪我をしてませんよ」
「……本当か?」
「はい!」
 嬉しかった。彼が心配してくれることが。
 感情を表に出してくれることが。
 アリババさんが元に戻ったみたいで。
「どうぞ、これを。この金属器はアリババさんが持つべきものです」
「……ありがとな」
 彼に宝剣を手渡す。ずしりとした重さが彼の手に移って、ほっと息を吐いた。ようやく元通りになる。そんな予感に顔がほころぶ。
「でも、どうやって? よく見つけられたな」
「ユナンさんから頂いた魔法道具があったからです。それで場所がわかったんですよ」
「へえーすごいんだな!」
「ええ、それで白龍さんが――」

 ガチャリ、と、音を立てて剣が地面に落ちた。
 何が起きたのかわからずアリババさんの様子を伺うと、彼は目を見開いて震えている。

――しまった。

 自分の迂闊さを呪った。時間がそれほど経った訳でもないのに、彼が見せた感情に私は気を取られていた。油断していた。あそこでの出来事がアリババさんにどんな意味を持っているのかも想像せずに。
「アリババさん」
 震える彼の肩を抱いた。抱きしめてどうにか震えを止めたいと願って。
「アリババさん。もう、大丈夫なんですよ」
「わっ、るい、俺……」
「それ以上言わなくていいです。私が、悪かったんです」

  震えよ、早く止まって。
  お願いだから私からアリババさんを奪わないで。

prev / next

[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -