《はつこい》 #01_引き出し:04 「知ってる、ってか、好きな相手が何を思ってるかなんて、見てりゃだいたい判んだろ」 「あー…、うん」 それはあたしにも心当たりがある。 倉田くんの想いが、どこに向いてるか、見てて気が付いてしまったのだから。 「あんときはガキだったし、好きだとかなんだとか、よく判んなかったんだよ」 今もたいして変わってねぇけど、って笑う倉田くんの前に、店員さんが新しいグラスを置いていく。 「…でも倉田くん、千夏を」 「ハハハ、それ言われると、」 照れ臭そうに、グラスに手をかけた。 倉田くんの指が触れたところから、幾筋かの水滴が零れる。 「可愛いよな、とは、思ってたんだよ」 「中学卒業してから付き合ってる、って聞いたよ?」 「ちょっとだけ、な。付き合ってみて、可愛いと思うのと、好きだと思うのは、別モンだ、って判った」 あの頃はまだ、いろんなものが憧れの上に成り立っていた。 倉田くんが“好き”って感情をよく判らなかったみたいに、あたしも判っていなかったのかもしれない。 恋に恋する、とはよく言ったもので、実はそんな感じだったような気さえしてくる。 「…ってか、真由子は三井を好きなんだと思ってたんだよな、俺」 「え…?」 「退部すんのすげぇ引き止めてたし、三井が辞めてしばらく元気なかったし、…それに、」 ちょっ、ちょっと。 あたしの気持ちに気付いてたんだとばかり思っていたのに、とんだ勘違いだ。 脱力しかけたあたしの思考を呼び戻したのは、遠慮気味に吐き出された倉田くんの台詞だった。 「――返事、くれなかったし」 [*]prev | next[#] book_top |