《はつこい》
#01_引き出し:03



「お前、全然変わんねぇな」


 三年ぶりの再会は、そんな身近な言葉で始まる。

 あたしはちょっと緊張していたのに、昨日も逢ったみたいな口ぶりが、倉田くんらしい。


 倉田くんとの話は、やっぱり部活のことがメインで。

 一年生の頃からを順に辿っていくと、お互いに知らなかったことが結構あった。


「三井が辞めるときにさ、」


 数少ない男子部員だった三井くん。

 中二の夏休みが終わってすぐに、急に部を辞めてしまった。


「真由子、かなり引き止めてたろ?」

「ん、だって、もったいないと思って」

「俺、すげぇ厭味言われたんだぞ」

「どうしてよ」

「誰が誰をどうだ、とか、俺が軽々しく言うことでもねぇけどさ、…あいつ、お前を好きだったから」


 酔って、は、いない、はず。

 けど、倉田くんは冗談を言ってるような顔はしていない。


「まぁ、俺が悪いんだけど」


 倉田くんのグラスが空いて、通り掛かった店員さんに同じものを注文する。


「…意味判んない」


 三井くんがあたしを好きでいてくれたことは、本人に直接言われたので知っていた。

 でもそれで倉田くんが厭味を言われるのが、倉田くん自身のせい?

 何ひとつ繋がらなくて、頭の中にはクエスチョンマークが飛び交っていた。


「あー…、自意識過剰なようで悪いんだけど、真由子が俺を見てる顔を見てんのが堪えられない、ってさ。三井が」

「…。……え!?」


 何なら髪が逆立ったんじゃないか、と思う程、あたしの驚き様は尋常じゃなかった。

 弾みで枝豆のお皿をひっくり返し、慌てて器に拾い集める。


「し、知って、たのかな、三井くん。その、えーと…」


 あたしが倉田くんを好きだったこと、なんて、スラスラ言えるまでになってないあたしは、しどろもどろで、滑稽日本代表になれる。




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