《はつこい》
#03_恋の行方:03



「ホント、お前変わんねぇな」

「…うるさい」


 灰皿にタバコを押し付けて、三井がニヤニヤと笑う。

 お前だって、その含み笑い、全然変わってねぇよ。


「倉田さぁ、覚えてる?」


 三井の親指の下、ピスタチオの殻が、パキッ、と乾いた音をたてた。


「中二、…中三かな。体育の時間に、校庭でさ」

「真由子が好きなのは三井じゃない、ってやつ?」

「ホンット、お前感じ悪いな。そこだけフューチャーすんなよな。そのあと、俺が言ったことだよ」


 ――あーあ、ちくしょう。手遅れだといいのに


 忘れるかよ。

 三井の預言どおり、しっかり手遅れだってのに。



「ごめんね、遅くなって」


 店のドアが開いて、息を切らした真由子が顔を出し、その話は中断してしまった。


「遅ぇよ、主役」

「残業頼まれちゃって」


 三井は、さっき、何を言いたかったんだろう。

 気にはなるけど、真由子の前でする話ではない。

 それに、今さら、だ。

 真由子は結婚するんだし、俺も今は彼女がいる。

 もう、真由子と俺が、どうこうなることは絶対にない。


「何話してたの?」

「真由子の悪口」

「やだ、欠席裁判? ひどくない?」


 こうして、結婚を祝うことができるんだから、俺の中では昇華されて、想い出になっているはず。

 十年前の俺たちじゃない。

 それぞれの道を歩んでいる。


 ――ちゃんと振ってやんないと、諦めつかないだろ


 モヤモヤして釈然としないのは、きっちりケリをつけた記憶がないから。

 それだけ、だ。




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