《シャンプー》
#03_悪あがき:02




「まぁ…、そうだな」

「あたし、次に付き合うことがあるとしたら、まずはお兄ちゃんに見てもらうことにしようかな」

「あの男のときだって、俺は超絶猛反対した記憶があるんだけど?」

「えへへ。だから、いい勉強になったな、って思って」


 もう、吹っ切れているのだろうか。

 掴み処のない態度が、俺を焦らせる。


「いい男、ねぇ。俺のことだ、って言ったろ?」

「いい男が休日にデートもしないで家でゴロゴロするの?」

「相手、いねぇし」

「え!? あの人は? 美容部員とかっていう綺麗な人」


 がばっ、と、身体を乗り出して、弥生は目を見開いた。


「あー…、」


 あれはもうとっくに…、というよりも、付き合いは付き合いでも、一晩限定、のお付き合いだった訳だからして。

 偶然街中で遭遇してしまった弥生が、付き合ってると思い込んでただけだ。


「もぉ。お兄ちゃんてホント長続きしないよねぇ」


 本気なのがねぇからな。

 なんて言ったら、軽蔑されるだろうか。

 カチャカチャと食器を片付ける弥生の背中を、この先誰が抱き締めるのだろう。

 その“誰か”のひとりに、名乗り出る権利すら、俺には与えられない。


「いい天気なのに」


 もったいない、と、弥生は膨れている。

 …誰のおかげだと思ってんのかね。


「じゃあ、そんな可哀相なお兄様と、ドライブデートにでも行くか?」


 蛇口を止めて振り返った弥生の、髪が揺れた。


「――行く!」








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