《シャンプー》
#02_オアシス:03




 いつも、そう。

 智くんは、あたしの味方をしてくれる。

 あたしの話を聞いてくれる。

 いつだって。

 どんなときだって。


「何があった?」


 こうやって、少し腰を屈めてあたしの目を覗き込んで。


「髪…、切ってぇ…!」


 あたしの願いを、叶えてくれる。




 お店のスタッフを帰し、あたしをお店のソファに座らせてくれた。

 目の前にコトリと置かれたのは、甘い湯気の漂うホットミルク。


「どうした」


 恋人と別れて髪を切るだなんて、あまりにベタ過ぎるってことは自覚している。


「彼氏とケンカ?」


 きっと、智くんもそう思っているのだろう、と受け取れる台詞が、あたしに強がりを言わせる。


「ケンカじゃない」

「じゃあ、」

「だって!」


 いつも、あたしのワガママを黙って聞いてくれる智くんが、今日に限って聞いてくれない。

 再び流れた涙は、彼のことを考えた涙ではなかった。


「ケンカじゃないなら、何? 髪切りたいなんて、よっぽどだろ」


 だからさっきから言ってるのに。

 別れたの。
 あたし、彼と別れてきたの。

 別れた、と、あたしが言うのを、単なるケンカだと思っている智くんは、髪を切らない理由を探しているようにも見える。


「…う、わき、してた」


 ソファの隣でコーヒーを飲む智くんの手が、ピタ、と、一瞬だけ止まった。

 そして、軽くため息を吐く。


「だから葉月も反対したろ」


 そうだよ。

 お兄ちゃんに反対されたよ。
 あんな男ダメだ、って。

 そういえば、街ですれ違ったとき、智くんもいい顔しなかったよね。

 あたしは男を見る目がなかった、ってこと?




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