《Hot Chocolate》 #03_名誉挽回:04 逃げるな、と、柳井は言う。 逃げないでやって、という言われ方なら、そんなに気に留めなかったかもしれない。 強い口調で、相談されていたとはいえ、他人事なのに、まるで自分のことのように。 ああ、…――そうか。 ダメだ、やっぱ俺、こういうの、ニブいんだ。 悪いことをした。 綿貫にも、柳井にも。 誰が満点を狙ってるか、なんてのは、問題を作る側からしたら知ったこっちゃない。 いちいちそういうことを気にしていたら、いつまでも完成しない。 「…クソッ」 それなのに、逐一思考に邪魔が入る。 教師としてあるまじきことなのに。 綿貫は解けるだろうか、と。 そればかり気にかかる。 チョコと手紙は、自宅の冷蔵庫の中だ。元の包装紙に包み直してジップロックに入れて、一番奥に押し込んだ。 しかしそれは逆効果で、冷蔵庫を開けるたびに気にかかる。うっかり水もビールも飲めやしない。しまいには、家にいると冷蔵庫が気になって何もできない有り様だ。 だからこうして、学校に残ってやってるっていうのに、俺の意識はさっきから自宅の冷蔵庫へすっ飛んでいる。 「…何やってんだ俺」 ちょっと、舞い上がってたんだと思う。 義理全開でもらうチョコに慣れてしまって、本気っぽく渡されるのに浮き足立ったんだ。 そういうみっともない自分に気が付きたくなくて、拾った手紙に理不尽な言い訳をこじつけて、そして、――綿貫を、傷付けた。 [*]prev | next[#] bookmark |