《Before, it's too late.》 #03_男の子、女の子:04 -------------------- from:季一先輩 date:**/11/28 12:43 今日、一緒に帰ろう 図書室で待ってる -------------------- この一週間、季一先輩は毎日メールをくれた。 予備校の帰り道や、勉強の合間、寝る前…。季一先輩の隙間時間が、受信フォルダに蓄積されていく。 今まで、特に用事もなくメールをもらうことなんてなかったから、それは季一先輩の気持ちの変化なのかな、と思う。 一週間分のメールには、返事を急かすようなことは一言だって書いてなかった。逢おう、というのもなかった。 だから、今日のこれは、きっと無言の催促。 「季一先輩、」 図書室には、誰もいない。 誰もいなくても、つい声を潜めてしまう。図書室とは不思議な空間だ。 時計の針が時を刻む音すらしない静寂の外側で、ボールを蹴る音や、金属バットに硬球が当たる音が、薄く響いていた。 赤本をめくる、季一先輩の手が止まる。 「お待たせしました」 誰もいなくたって、ただ待ち合わせただけだって、季一先輩はいつもの場所に座っていた。 …――受験生、なんだ。 一分でも一秒でも惜しいはずなのに、あたしに時間を分けてくれる。 「ん」 赤本をめくっていた手は、その本を閉じて、隣の椅子を引いた。 座って、と、口角の上がった笑顔が物語って、あたしはそれに、抗えない。 「なんか、久しぶり?」 「ですね」 椅子を引いてくれた季一先輩の手は、背もたれを掴んだままだ。 そこに座るのはまるで腕の中に飛び込むようで、照れと躊躇いが交錯する。 「あー…、俺、小細工とか駆け引きとか苦手だから、単刀直入に訊くけどさ、」 [*]prev | next[#] bookmark |