《桜、咲く》
#05_元凶:02




 和紀くんに対しては、怖い、と思うことがなくなっていた。

 いつでもすごく気を遣ってくれていたのは判ってるし、今でも、そう。


 こないだ、和紀くんの友だちの修司くんを紹介されたけど、前ほどじゃないにしても、やっぱり少し身構えてしまった。

 怖いの解禁、は、和紀くん限定なのは確実。

 目も合わせてくれないかも、って思ってたみたいよ、と、後からめぐちゃんに聞かされて、修司くんがめぐちゃんの彼氏だと知らされた。

 和紀くんのお陰で、あたしはかなり、進歩したと思う。





「――三枝鈴ちゃん?」


 珍しく、公園にはあたしが先に着いた。

 いつもは和紀くんが先に来ているので、こんな風に待つのは初めて。

 ベンチで本を読んでいたら、知らない人に声をかけられ、思わず身を硬くする。


「ごめんね、いきなり。これ、森川から伝言」


 差し出されたのは、二つ折にした一枚のメモ。

 和紀くんから――?


「あいつ、担任に呼び出されて少し遅くなるから、先にここに行ってて、ってさ。携帯、充電切れてて連絡できないから、俺が伝書鳩」


 人懐っこい笑顔を見せる、その人。

 ありがとう、と、メモを受け取ろうとした瞬間、大事なことを思い出す。


 ――俺以外に着いてくなよ

 前に、和紀くんに言われた。


 ――和紀はいろんなところでムダに恨まれてるから敵多いんだ。三枝さんが巻き込まれでもしたら、あいつ、人殺しかねないよ

 …なんて、修司くんも言ってた。


 よく見れば、この人、東高の制服じゃない。

 和紀くんから伝言なんて、おかしい。

 だって、もしホントに携帯の充電が切れたのなら、簡易電池を買うか、修司くん経由でめぐちゃんに連絡がくるはず。

 あたしに伝言するのに、男の人には頼まないはず。

 …和紀くんなら、そうする。

 そう、してくれる。




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