《桜、咲く》
#03_初デート:02




 電車を降りると、また、雪が降っていた。


「まだ外でのデートは寒いか」


 肩を竦めて、鈴を見る。

 困ったような、戸惑ってるような、微妙な顔付き。


「ね、」


 少し距離を空け、少し俺の後ろを歩く鈴に声をかけた。


「魚、好き?」

「魚…?」


 よく見れば、意外と表情がコロコロ変わる。

 考えてることや思ってることが、顔に出るタイプかもな。


「あー、魚ってか、熱帯魚」

「う、ん?」

「よかった」


 よし、今のは肯定と取る。

 鈴の隣に並んでしまわないように、鈴の歩調に合わせて少し先を歩いた。

 きっと、並ぶと手を繋ぎたくなってしまう。

 そんなことすると、警戒させるから。

 他愛のない話で間を繋ぎながら、俺の隠れ家に鈴を誘う。


「…喫茶店?」

「そ」


 シャラララン、と、涼しいドアベルが迎えてくれる。

 この音は他のどこの店でも聞けない。この店だけの、ドアベル。


「よう、和紀」

「こんちは」


 マスターに軽く会釈をして、いつもの席に向かう。

 大きな水槽の横。

 カラフルな熱帯魚がフワフワと泳ぐ、特等席。


「わ…」


 鈴の顔が綻んだ。

 蕾がゆっくり花開くように、緩やかに、そして嘘偽りなく。


「珍しいね、ひとりじゃないなんて」


 マスターがお冷やをテーブルに置いて、こんにちは、と、鈴にヒゲ面の笑顔を向ける。

 鈴は一瞬怯んだけれど、ぎこちなく頭を下げた。




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