《蛍の群れ》 #Ex_銀賞受賞記念オマケ:02 よく見たら――という言い方は失礼かもしれないけど――こういう表情とか、俺好みだ。 「あ、や、えっと、」 キョドって、うつむいて、口元隠して、真っ赤になって。 ――ヤベぇ、ツボった。 「くくく…。ごめんごめん。大事なお客様なのに、からかったりして」 ダメだ、笑ってしまった。 だってもう、みるみる真っ赤になってく。こんなのマンガか小説か―― 「あっ――」 チャリチャリーン。 「おっ、と」 「ご、ごめんなさ…!」 ドサリ。 ――マンガでした。 焦った彼女が撒き散らしてしまった小銭を拾おうとしたら、スクールバッグの中身まで飛び出してしまった。 周りのお客さんがチラチラ見てるからか、今度は顔面蒼白。なかなか忙しい。 「これで全部かな?」 「す、すみませ…」 俺もカウンターから出て、床に散ったあれこれを一緒に拾いながら、またチラ見。 あ、ちょっと涙目んなってるな。そりゃ恥ずかしいか。 集めて重ねた教科書たちの一番上に、大学ノート。 ラッキー。名前が書いてあるじゃん。 「へぇ、林田…」 ふと、大学時代の同級生を思い出す。 えらく気の強い、妹ラブなのがいたなあ。あいつも苗字が林田だったっけ。 「…ミライちゃん、ていうの? ミキちゃんかな」 「ミキ、です。林田未来」 まさか、なんて思いつつ、疑問は確信に変わっていく。 なんだこの符合。ちょっと怖いぞ。 [*]prev | next[#] book_top |