《蛍の群れ》 #Ex_銀賞受賞記念オマケ:01 ふむ。まただ。 「680円になります」 また俺が読みたいと思ってた本を選んだよ、彼女。 何回目だっけ、この偶然。 この間から、彼女が気になって仕方ない。 会計中の単行本に、店のロゴが印刷された乳白色のカバーをかけながら、チラチラとカウンターの向こうを窺い見る。 この制服、四葉女子だな。 女子高生か。 うーん、犯罪だよなあ…。 何が犯罪、って突っ込まれたら、変態の称号を甘んじて受けるしかないピンクの妄想を振り払い、深呼吸をひとつ。 …ふたつ。みっつ。 よし。 俺は声をかける。 「本、好きなんだね」 やべ、やっぱ不審者扱いか!? 彼女、カバンに手を突っ込んだまま、視線が泳いじゃってるし。 ダメだ、気付かれてもいないじゃないか。 「来月ね、この作家の新刊出るよ」 今度スルーされたら、今夜泣きながら独り酒決定。 引き攣ってるかもしれない笑顔を浮かべて、カバーをかけた単行本を差し出す。 「は…」 よーし、反応あり! 舞い上がった俺の押しがノンストップだ。 若干引いてるような、状況を理解してない彼女に負けるな、俺。 「ハードカバーだから、ちょっと高いけどね。それに通学中に読むには、大きいかな」 「あの、…」 「よく来てくれてるよね、ウチの店」 …え、なに、この沈黙。沈黙というか、緊迫? じーっと、ビー玉みたいな真ん丸な瞳が、こっちに向いたままフリーズしてる。 うーわ、なんていうか。 「そんなに見つめられると、さすがに照れるんだけど」 [*]prev | next[#] book_top |