《蛍の群れ》 #02_ヤキモチの正体:25 「…蛍みたい」 吸い付かれた手首の周囲がぼんやり滲んで、真ん中だけ小さく強く、色付いている。 蛍は赤くないけれど、なんとなく、そう思ったら口に出ていた。 「早く寝ないと、全身蛍でいっぱいにするよ?」 「だっ、ダメ」 慌てるあたしをクスクスと笑い、望月さんはタオルケットを肩までかけ直してくれた。 ようやく、解放される手首。 「具合がよくなったら、蛍、見に行こうね」 胸の上に置いた手首を撫でながら、望月さんが優しい声を出す。 「…蛍の歌、知ってる?」 「こっちの水は甘いぞ、ってやつ?」 「そう、それ。蛍はホントに甘い水を好む訳ではないみたいだけど、」 もう片方の手が、あたしの額からつむじにかけて、ゆるりと大きく前後した。 「蛍じゃなくたって、苦い水より甘いのがいいに決まってるよな」 例えば、と、つむじを見つけた指先は、こめかみを通って喉元に帰り、唇に辿り着く。 「ここ、とか」 「…甘いの?」 「俺にはね。…もっと甘いとこもあるけど、試していい?」 「や、も、ムリ…っ」 キスだけで――というより、望月さんがいるだけで、あたしの熱は下がりそうにないのに。 両手で頬を挟んで覗き込むようにされると、望月さんの前髪が、額にハラリと落ちてきた。 何気なくその髪に手を伸ばせば、望月さんが一瞬、強張る。 「あ、ごめ…」 さっきもだった。 触っちゃいけなかったかな。 「まったくもう、煽り上手が」 [*]prev | next[#] book_top |