《蛍の群れ》
#02_ヤキモチの正体:02



「…おじさんなんかじゃ、ないです」


 あーちゃんと同い年なら、望月さんはあたしの五歳上。

 あたしはまだ十代だけど、望月さんは二十代。

 あたしはまだ学生だけど、望月さんは社会人。

 たしかに、この差は大きい、けれど。


「そう言ってもらえると、救われるな」


 空元気をぎゅっと絞り出すみたいな、笑ってない笑い声。

 望月さんにそんな声を出させているのは、紛れもなくあたしだ。


 ゆっくり、ゆっくり。

 行き交う人の流れよりもゆっくりと、あたしは望月さんの隣を歩く。

 あたしたちの周りだけ、時間の流れが遅くなっているかのように。


「…望月さん」

「ん?」


 柔らかい視線が、斜め上から注がれる。

 この視線は、いつまであたしを捉えていてくれるのだろう。

 そんなことを考えていたら、怖くなってしまって、あたしの足は、歩くのをやめていた。


「…あたしも、おかしいかもしれないです」


 立ち止まったあたしに、道を急ぐ人の肩が軽くぶつかる。

 弾みでよろけたあたしを、望月さんの腕が支えてくれた。

 初めて“デート”をした日、抱き締められた強い腕に。

 また、息が苦しい――。


「…っと、危ないから、こっちへ」


 人混みを縫うように道の脇へ導かれて、電話ボックス横のガードレールに寄り掛かる。


「あたしね、あたし…」


 どうしよう。

 あーちゃんは、何て言ったらいいのかまでは、教えてくれなかった。

 あたしの気持ちが大事、って言ってた。


 あたしの、気持ち。

 言葉にしようとすると、一緒に涙が出てしまいそうで。




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