《Hard Candy》
#07_コトバ:03



 恋愛映画なんて、男の子は嫌がると思っていたけど、凪は一緒に観てくれる。

 凪がベッドを背にして座り、凪の胸に、あたしが寄り掛かって。


「重くない?」

「ん。平気」


 凪もあたしに寄り掛かるようにして、肩に顎を乗せた。

 こうやって、凪と触れ合っている間はリラックスできる。



《ずっと好きだったんだ》

《あたしも、好き》


 恋愛映画なんだから、こんな台詞のひとつやふたつ、当然出てくるけれど、凪と一緒に観ていると、当たり前のような台詞にもドキドキする。

 横目でチラリと凪を見ると、食い入るように画面を見つめていた。


 ああ、もう。
 映画に集中しないと。

 映画の中の当たり前の台詞にドキドキして、どうするの。

 恋人同士になるんだから、好き、って言うでしょう。

 あたしだって、凪に――…。


 あ、れ…?

 あたし、凪に「好き」って言われた?


 名前で呼んでほしい、とか。

 運命変えてやる、とか。

 傍に置きたい、とか。

 大事にする、とか。

 ヤキモチ妬いてくれたり、とか。

 バイクに乗せてくれたり、とか。

 キスしたり、とか。

 は、はは初体験やり直そう、とか。


 そういうことは、何度も言われたりされたりしているけど、「好き」って、言われた記憶がない。


 凪が全身であたしを大切にしてくれているのは判っている。

 判るけど、でも。


 それに気付いた瞬間、あたしの頬が濡れた。


「可愛いな、澪。映画観て泣いちゃったんだ?」


 観たいと思っていた映画なのに、主人公たちの告白シーンからあとのストーリーは、全く覚えていない。

 肩に乗った凪の顔が横を向いて、あたしの頬に唇を寄せる。




- 66 -



[*]prev | next[#]
bookmark



book_top
page total: 90


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.