《Hard Candy》 #04_白い月:03 特になにが気になる、って訳じゃなかった。 2年になって、新しいクラスになって。 クラスの奴らが『国領いいよな』なんて噂してんのを、何度か耳にして。 そんないいかね、と、ちょっとだけ、気にしてみただけだった。 うん、そうだ。 奴らの言うことは、正しかった。 図書室で、貸し出しの受付当番をするときの笑顔、とか。 授業中、当てられて教科書を読む前に髪を耳にかける仕草、とか。 友達と笑い合ってるのにその隙間に見せる陰った瞳、とか。 休み時間、携帯を閉じる前に小さく噛み締める下唇、とか。 そういうの、他の女だったら全然気になんなかったのに。 いちいち目に付くようになって、いつの間にか目で追うようになって。 それを全部欲しい、と、思うようになっている俺がいた。 澪だから、欲しくなった。 「ちょっと、雨宮ジャマ」 掃除当番なんて、いつもオールスルーだったのに、塚本がうるせぇから来てみりゃ、ぞんざいな扱い。 理科室の人体標本にポーズをつけさせていたら、箒先で踵を突かれた。 「へぇへぇ」 「せめてチリトリくらい持ちなさいよ」 オレンジのチリトリを押し付けられて、しぶしぶ受け取ってしゃがむ。 「…ねぇ、雨宮」 床に押し付けたチリトリに綿ぼこりを押し込みながら、やけに真顔で塚本が声を潜める。 「あたしは、雨宮の味方だからね?」 [*]prev | next[#] bookmark |