《Hard Candy》
#04_白い月:02



 がっくりと肩を落とし、うなだれた男が去っていくと、


「雨宮くん!」


 って、澪が怒り出すのも、日課。


「もー、その“雨宮くん”っての、いい加減やめようぜ」

「話を逸らさないで」


 舐められた首筋を押さえながら、腕の中から逃げようと躍起になる。


「ねぇ、み――」

「雨宮っ! 図書室でイチャイチャするなと言ったろう!」


 図書室司書の前原に怒鳴られるのも、これまた日課。


「ちぇ」

「ちぇ、じゃない。まったく毎日毎日…。国領も、もう少し男を選べよ?」

「やだ、違っ…もー、雨宮くん離れてっ」

「なんだ、前原センセー、妬いてんの?」

「バカかお前は…」


 定年間際の前原が、呆れた顔で眼鏡の位置を直す。

 もう帰っていいぞ、と、前原に言われ、澪は俺を睨みつけるけど怖くない。


「あ・ま・み・や・くん」


 そして、きっとわざと強調して、雨宮、と言う。


「…ハイ。ごめんなさい」


 しょんぼりしてみせても、それがポーズだってことは、澪にはバレバレ。


「今日はひとりで帰るっ」

「あ、ちょ、澪――!」


 こうやって、澪の傍には俺がいることを全校生徒に見せ付けるのが、俺の日課。




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