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 月曜日。

 営業2課の朝は軒並みいつも通り。なので、なまえもいつも通り、エントランスに有るセキュリティの機械にICカードをスキャンさせる。
 でも休息日の翌日の早起きはちょっと酷だし、これが後5日も続くのかと思うと気が重い。だから、欠伸が出るのも仕方が無い。 くあ。 片手で偶発的に空いた口は隠すけれど、ゲートからエレベーターホールに向かう道すがらの誰も居ない状況には、神様に感謝する。

「凄い欠伸だ。昨夜は夜更かしでもしたのかい?」

 それでも、神様と言うのはどの神話においても意地悪なもの。当然、今朝なまえに微笑んでくれた神様もそうらしい。
 頭の上から聞こえて来た声の主へ向かって、なまえは顔を上げた。ああ、ジーザス。

「あら、ココさん。おはようございます」
「おはよう。なまえ君」

 ココは、なまえが籍を置く営業2課の営業マン。元々はなまえの上長だったが、話術をお得意先に見込まれてこの春移動したばかり。最も彼は深く濃い清潔な黒髪と、エキゾチックな肌を持つ一流大卒の二枚目。今迄内勤だったのがおかしな話。にっこり笑うその姿には、誰しも目を奪われて陶酔する。
 とは言ってもなまえには見慣れたもの。だってはなまえ今、そんな彼直属の営業事務なのだ。

「女性の失態は見て見ぬ振りをするのが、良い男の第一歩だと思いますけど」

 当然、こんな軽口も慣れたもの。

「そうか。それは失敬。今後は気をつけよう」

 そう言うとココは微笑んで手を伸ばし、なまえの先に有る呼び込みボタンを押した。今度は宣言通り、なまえの失態には触れず、悠々と姿勢を正す。
 気不味そうにココを見上げたなまえの視線には、ウインクひとつを投げて返す。

「ココさんて……」
「ん?」

 だからなまえは、溜息ひとつをつけて呟いた。

「本当に、嫌味な方」
「……もしかして先週の事、未だ怒ってるのかい?」

 ココは気不味そうに、苦笑した。



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