2 (2/4)
desultory -2- 『・・・で?』 「はい」 『片付けはやっとくと言った筈だが?』 「それは助かります」 『・・・で?』 「はい」 『何でココはワタシの後ろにいるのかな』 「何でもです」 『・・・・・・』 「・・・・・・」 『手を洗いたい?』 「洗いません」 『コーヒーのおかわり?』 「今はいいです」 『じゃあ何だ?』 「言ったじゃないですか」 『何て?』 「脈絡無くても気にしないって」 『確かに』 「ちゃんと認めてるって」 『言った』 「告白するなら今日、って」 『占いが』 「今しかないって、室長が」 『言ったね』 「そういう事です」 『・・・・・・』 「・・・・・・」 『・・・脈絡無さ過ぎじゃないかな?』 「脈絡に程度が在るんですか?」 『最強の屁理屈だ』 「最高の正論です」 『困ったな』 「何が」 『まずその手をどけようか』 「嫌です」 『このまま背後から絞められそうだ』 「このまま背後から抱き締めます」 『とりあえず一歩下がろうか』 「下がりません。逃げそうなので」 『逃げないよ』 「その根拠は?」 『鬼ごっこは得意じゃない』 「ボクが鬼ですか」 『当然』 「ひたすら追いかけますよ」 『だろうね』 「逃がしませんから」 『見れば分かるよ』 「じゃあ観念して下さい」 『本気で?』 「本気で」 『・・・・・・』 「・・・・・・」 「・・・・・・まずこの手をどけてくれませんか?」 『どけたら、取り返しが、つかない、だろっ?!』 「顎がひしゃげそうなんですけど」 『そんなヤワじゃない・・・だろ?!』 「随分な馬鹿力ですね」 『馬鹿みたく接近するからだ』 「ちょっとくらい良いじゃないですか」 『唾液の交換にちょっとも何もあるか』 「別に飲んでも死にませんよ」 『どんだけ出す気なんだよ!』 「本気で顎がひしゃげそうだ」 『むしろ折れても良い気がしてきた』 「往生際が悪いですよ」 『引き際も大事だって習っただろ?』 「何でそんなに頑固なんですか」 『乙女の貞操を疑問視するな』 「・・・乙女って年齢ですか」 『悪、かっ、たね、良い、年で』 「年下で悪かったですよ」 『誰もそんな事言ってない』 「そろそろ体力の限界なんでは?」 『それは・・・残念だなココ』 「何でボク?」 『聞こえないかな?休憩時間終了が』 「え。」 『体力の前にタイムリミットだ』 「・・・開始はフライングでしたけど?」 『細かい事は気にしない』 「・・・・・・」 『ささ、仕事しろ』 「・・・・・・」 『そんな目で見るなって』 「ずるいです」 『ずるくない』 「ずるい」 『何がずるい?』 「返事を聞けてない」 『あぁ・・・返事ね』 「断る人はいないんですよね」 『自分で言うか?!』 「室長が言ったんです」 『また屁理屈だ』 「だって」 『分かった。でもその前に』 「何ですか?」 『洗い物するからホントに手をどけなさい』 「・・・分かりましたよ」 『・・・さっきの話の続きなんだけどさ』 「何ですか?」 『欲が無いね、の辺り』 「あぁ・・・賞与?」 『そう』 「何か欲しい物有りますか?」 『じゃあデッキ』 「そこに購入の上申書を出してます」 『早っ』 「後で決済を下さい」 『はいはい』 「で、他には?」 『良いから無駄遣いするな』 「しません。それより」 『何?』 「話逸らしましたね?」 『ばれたか』 「残念ですけど、逸れてませんから」 『どういう事?』 「賞与で買う物です」 『決まってるの?』 「決まってます」 『残りは貯金だったっけ』 「いいえ」 『じゃ何?』 「3か月分ですから」 『え?』 「ギリギリです」 『・・・・・・は』 「不満なら貯金と今月の生活費も削って」 『本気か?!』 「ところで指のサイズはいくつですか?」 『おいおい』 「当然薬指を聞いてます」 『脈絡どころか話が飛んでないか?』 「飛んでません」 『飛ぶどころか始まってもいない気すらしてるんだが?』 「ボクはついさっき始まった気がしましたが」 『ココはワタシを都合良く脚色してるんだって』 「何故?」 『自分の理想像に仕立ててるって事』 「それは無いです。」 『じゃあ聞くがココはワタシの何を知ってるんだ?』 「何って」 『社内のワタシだけがワタシじゃない。分かるか?』 「分かってますよ。」 『随分自信ありげだね?』 「色々調査済みですから」 『今何て言った?!』 「色々調査済みです、と」 『色々って・・・・・・』 「・・・何ですかその目?」 『犯罪っぽく感じたのは気のせいか?』 「ギリギリですけど、抵触してません」 『半分ジョークに聞こえないよ』 「冗談も何も、ずっと見てましたから」 『ずっと?!』 「ずっと」 『えーっと』 「此処に配属される前からです」 『マジで』 「追っかけ入社でした」 『うっそ』 「選んでもらえるように必死でした」 『・・・何と言うか』 「何ですか」 『本気か?』 「本気です。」 『・・・・・・』 「・・・・・・」 『・・・コーヒーでも飲むか』 「いきなりですね」 『静か過ぎるんだって』 「さっきから言ってますよ?」 『音が無い分気が散るんだって』 「ボクは平気ですけど」 『何で』 「回答待ちなので」 『・・・覚えてたか』 「忘れると思うんですか」 『思わない』 「逃げられると思うんですか」 『思わない』 「じゃあ、どうぞ」 『どうぞってココ・・・』 「何ですか」 『心の整理が』 「手伝いましょうか」 『何を』 「雑念の片付けを」 『・・・何か企んでるだろ』 「室長の口が動くのを待ってるんです」 『こらこら、何してる』 「室長の口を動かそうとしてるんです」 『無茶言って人の前に立たない!』 「立ちます。逃げそうなので」 『逃げないって』 「その根拠は?」 『後が怖い』 「ひたすら追いかけますからね」 『だろうね』 「諦めませんから」 『見れば分かるよ』 「じゃあ観念して下さい」 『全く・・・』 「・・・聞いてますか室長?」 『・・・聞いてるよ』 「どの辺が?」 『・・・この辺かな』 「・・・・・・」 『・・・・・・』 「・・・・・・反則だ」 『そうかな』 「あれほど頑固だったのに」 『それはそれ、これはこれ』 「ずるいです」 『ずるくない』 「ずるい」 『何がずるい?』 「子ども扱いが」 『事実部下の一人だからね』 「・・・・・・」 『顔赤いよ?』 「赤くもなりますよ!」 『ココが言ったんじゃん』 「何を?」 『口が動くのを待ってるんです、って』 「だからっていきなり・・・」 『いきなり?』 「・・・・・・」 『さて。コーヒー淹れようかな』
|