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absent "G" -6-




カミサマ。
幸せが着々と訪れています。



翌日ボクは、日の出と共にハントに出た。出かけた先は、ボクが寝泊りしているキッスの寝床からそう遠くないホワイトアップルの乱生地。
ボクが食べる訳じゃなかった。だってボクにはキッスが獲って来てくれていたから。不思議なんだけど、毎晩ボクが一日の報告をしている途中、キッスは必ず何かしらの食材をボクに差し出してきた。それをボクが受け取ると同時にキッスは寝てしまう。ボクはまだまだ話したい事が有るけど、キッスの好意を無下に出来ないから、本日の報告はキッスの捕獲食材の登場と共に終了、そんな毎日だった。
じゃあ何故ハントかって?目的はただ一つ、この後村に持っていくため。


なまえさんと話をしていくうちに、なまえさん自身の話もたくさん聞く事ができた。なまえさんがとある町の図書館に勤めているのもそれで知った。図書館が開催している子供向けの企画のスタッフとの事。次回は『アカシアの研究内容』を童話風に紹介する予定だったが、この災害でそれも暫く中止だと残念がっていた。それで、話の流れから当然のように『ナッツさんもお仕事に早く復帰できると良いですね』って。その時はそれ以上聞かれなかったけれど、彼女がボクをグルメフォーチュンの人間で、この災害で失業中と思っているのは明らかだった。ボクはこの時、うんと返事をしたけれど・・・一人になって思い直した。『ボク』を偽ってばかりではダメだ、と思った。何より、占いと美食屋以外の職業なんか全く分からないボク。他の職業を騙ったって、絶対にボロが出る。そして美食屋と占い師だったら、占い師の方が『ココ』であるボクに近いだろう。逆に『美食屋』は占い師の比じゃない人数だ。そう思った末の、本日のカミングアウト。『グルメフォーチュンに来る前は、美食屋をやっていたんだ』と。


・・・ねぇキッス?なまえさんはね、『ナッツさんは美食屋だったんですか?!』って。ボクは『黙っていてゴメン』って担いで来た袋を開けて、『皆の食事のデザートくらいにはなるかな』ってさ。ホワイトアップルを出したんだよ。


ボクが村に顔を出した時には、昨日ボクが『宣託』を授けた企業の人間たちがそれこそ避難民以上の人数で押し寄せていた。ボクの連絡の後で緊急招集されたんだろう。目の下にくまを作ってる人も少なくない。御愁傷さま。
ボクの占いを盲信している素直さの中に、社員の服やら配られる物品やらに企業名を誇示するあざとさが見えたけれど、まぁ許そう。


・・・キッス、なまえさんはね、『そんな事無いです』ってボクの獲ってきたホワイトアップルに凄く喜んでくれてさ。『こんなにたくさん凄いです!でも良いんですか?』って。もちろん良いに決まってるのにね!それから『もしかして、昨日私が森に行こうって言ったから・・・?!』『うん。でもそんな危険な真似、なまえさんにさせられないから』・・・ここで数秒間見つめ合ってたんだ!なまえさんが照れて目を反らしちゃったけどね。それで『次は別の物にチャレンジするね』って言ったら、『そんな、悪いです』『違うよ。ボクがしたいんだ。皆の・・・なまえさんのために』『じゃあ・・・絶対無理しないで下さいね?』『大丈夫。猛獣の回避は昔から得意だったんだ』『約束ですよ?』『うん。必ず戻って来るからね』・・・なんてね!ね、ねねねねね、今の、恋人同士の会話っぽかったよね?今まで口にこそしなかったけど、いつの間にかお互いにそう思ってて・・・え?違う?!・・・とにかく、ほんの少しの会話でなまえさんの色んな表情を見る事ができたよ!それこそホワイトアップル程度では絶対に買えない宝物を貰った気分でさ、意識が遥か彼方に飛びそうになったよ。ほっといたらオゾン草群生地くらいまで舞い上がったと思うよ!?


次いでボクは『そう言えば、支援も来てくれたみたいだね』と言った。いかにも初めて知ったかのように。彼女が興奮して言う。私もビックリしています。こんなにたくさんの厚意を、しかも一度に頂けるなんて、と。
食品会社からは食品だけでなく、長期保存のできるグルメケースや調理器具が、建設会社からはより快適な簡易住居が、そしてグルメフォーチュンの街も、国の補助で復興作業が。避難と言う名の停滞が、一気に動き出していた。
ボクにとってもそれは、有難い事だった。と言うのも避難している人の中には、なまえさんに好意を持っているような男が何人もいたから。
なまえさんはとても優しい女性だから、そんなやつらを邪険にする事もなかった。それが災いして、勘違いするやつらが増えていく。
そいつらが近々、グルメフォーチュンに戻って行く。だって建設会社、我先にと住居を造り始めているからね。自分たちがボクの言った『吉兆』を手に入れるのに必死なんだ。うん、しっかり頑張って欲しいよ。ボクだって自分の言った事には誠実だからね。


・・・それでさキッス?なまえさんに『ナッツさんも申し込みして下さい』って言われたけど、やめたよ。何がって?住居の申し込みだよ。グルメフォーチュンの街、建設会社が希望した順に着工してるんだって。でも今のボクには必要無いだろ?占いを再開するのはずっと後だし、キッスの羽根布団も気持ち良いし・・・え?ちゃんと申し込みしろ?でももしかしたら、彼女と新居に引っ越すかもしれ・・・そうかキッスも彼女を乗せて飛びたいよね!・・・え?違う?!今日のキッス、何だか不機嫌だね?・・・分かった。とりあえず自宅の方は頼む事にするよ。其処をボクらの新居用に作れば良いんだよね。やっぱり三階建てかなぁ?だって部屋数は必要だよね、家族が増えても良いようにさ?うん、増えるよ。グルメ野球のチームを作れるくらい。きっと賑やか過ぎて目が回るだろうな。毎日がプレイボール!って感じかなぁ・・・

ふと顔を上げたら、キッスと目が合った。キッスは何か言おうとしていて・・・言おうとしていたのに止めた。
ボクは良く分からないまま、キッスの羽根に埋もれた。








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