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absent "G" -5-




カミサマ。
幸せは自分で掴むものですよね?



そう。
この幸せを阻むやつも、横取りしようとするやつも、ボクにとっては大した敵じゃない。

この日はなまえさんの様子が何処か不自然だった。考え事をしているようで元気も無かったから、何か有ったのか聞いてみた。
実は、と恥ずかしそうに切り出された内容は、いたってシンプルだった。村の備蓄食料が残り僅かとの事。確かに今日はパンとチーズ。それでも有難いご馳走なんだけど。それよりも、この小さな村で今までよく食事が出せていたと思う。村人の数倍の避難民たちに。
でもどうしてなまえさんがそんな事を知っているのか。尋ねてみた。すると、なまえさんのおじいさんがこの村の長との返事が返ってきた。


・・・ねぇキッス?なまえさんは休暇を利用しておじいさんの住む村に遊びに来てたんだって。そこで四獣の侵略報道を聞いたって。でも、村の人はご老人が多くてさ、距離が距離だけに中心部には避難できずでさ。おじいさんはなまえさんだけでも避難しろと言ったみたいだけど、なまえさんは残って村の人たちと励まし合ってたって。それから今まで、おじいさんに何度も家に帰るように言われたけど、何もせずに帰るなんてできません、って拒んだんだって。その凛とした姿にさ!思わず抱き締めたい衝動を抑えるのに必死だったよ!!いや、いっそ抱き締めちゃった方が良かったかな?それでそのままボクの気持ちを伝えて、なまえさんも実は私も、ってさ・・・え?違う?・・・とにかく、カミサマはちゃんと見てるよね!だって四獣の手足その1は、この村をスルーしたんだからね!


なまえさんのおじいさんは長いこと村の長を務めていたらしい。当然備蓄の量も、それが底を尽きるのも、早くから分かりきっていた事だ。だから幾度も国や企業に支援を申し出ていた。が、返事が無いまま今に至ってしまった。避難民の多い所が優先されているのだろう。世界各地で被害が出ていて、中心部に避難した民衆には未だ帰宅の目途がたたない人も多い。後先考えずに避難、そんな状況だった。脅威は去ったものの、平和に歓喜したものの、未だ世界は混乱している。
こんな小さな村までは行き届かないのでしょう。だけど、このままでは。そんな困った顔を前にボクは・・・不謹慎にも憂い顔も可愛いなと見惚れていた。
それでも。なまえさんが悲しむ顔は見たくない。
ましてや果物を獲りに明日にでも森に入ってみようかなどと言い出されては、黙ってはいられない。美食屋は一朝一夕で務まるものじゃない。あの森にはそれこそ危険な猛獣がたくさんいる。キッスの寝床の周りが難を逃れたい小動物で溢れているのが良い例だ。
だからボクは、『大丈夫』と言った。『なまえさんの気持ちは絶対にカミサマに伝わるよ』、って。


・・・そうしたらキッス、なまえさん何て言ったと思う?『ナッツさんに言われると、本当にそうなる気がします。不思議ですね』・・・だって!もちろん、そうなるよ。なると言うより、するよ?いや、するじゃない。したよ。何がって?電話だよ電話!


その日村を後にしたボクは、誰もいないグルメフォーチュンまでやって来た。其処でおもむろに携帯電話を取り出した。
かけた先は、超一流の食品会社だ。その会社の社長室直通の電話番号をボクは知っていた。
何故って?社長が客だからだよ。ボクの占いの。
こんな事もあろうかと顧客情報をオンライン上に保存しておいたボク。おかげで店のパソコンがつぶれても携帯でアクセスできた。この快挙を四獣戦前に思い立った自分を褒めた。ボクの直観は正解だったよ!
社長、億単位の社員を抱えるトップなのに、電話の相手がボクだと知った途端変な声を上げて。震え上がったのが手に取るように分かった。社運に関わる一大事、と言ったボクが意地悪だったかな。
とにかく。急に視えた物が有るんだ、と前置きして、『ボクの店またはその付近で貴社が食品を配っている光景』と伝えた。『稀に見る吉兆だ』と。
用件だけ言って返事を待たずに切った。モタモタしている時間が惜しい。念のためもう一社。次に、国王。それから建設会社。どれもボクの顧客だった人物だ。しかも熱心な。次々に電話をかけて、淡々と『占いの結果』を伝えた。
これで場所が特定できない程度の人物なら、もうボクが占う価値は無い。電話を切ったボクは鼻で笑った。







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