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absent "G" -2-




・・・カミサマはいました。




疑ってすみませんでした。本当に。ごめんなさい。
何って?
カミサマ、アナタの事ですよ!!

正直、今まではさほど有り難味を感じていませんでした。だってどちらかと言ったらアナタはボクの事をあまり可愛がってくれていませんでしたから。
だけど、今。ひしひしと感じます。アナタの有り難味を。アナタの愛情を。カミサマ、いてくれて本当に有難うございます。
カミサマ。こんな不信心者にこれほどまでの御加護を本当に、本当に有難うございます!


知らず漏れ出した笑い声にいち早く反応したのは、ボクの家族、キッス。クルゥ、と喉の奥で小さく啼いた。
そう。今ボクは、キッスの羽根に埋もれている。キッスの寝床で。
健気にもキッスは、わざわざボクを迎えに来てくれた。と言うか、空を旋回していたらボクの姿が目に入ったんだろう。気が付いたらボク、グルメフォーチュンの近くで一人で立ってたから。ぽつんと。
大丈夫って断ったのに乗れと言ってきかないキッスに、ボクは仕方なく甘えた。背中に乗ると、キッスは自身の縄張りがある森へ向かって羽ばたいた。ボクの家とそう離れていないのに、運良く敵の進行方向から外れていたようで。森のそこかしこにかつてと同じように、様々な生き物の気配がした。
寝床にボクを下ろすとまた飛び立とうとするキッス。狩りに行くのかい?満腹だからボクの分は気にしないで良いよ。と言ったら、2・3度首を傾げてそのまま巣の中に収まった。あぁ、ボクの食事と思っていたんだ。ありがとう、心配してくれて。そう言ってボクはキッスの柔らかい羽根の中に飛び込んだ。・・・そして今に至る。
ボクの家族であるキッスは、ボクの事をとても大切にしてくれる、かけがえのない存在なんだ。そんなキッスだからボクは、ありのままの姿でいられる。そんなキッスだからボクは、自分の気持ちを包み隠さず報告できるんだ。


・・・キッス。聞いておくれよ。今日ボクは運命の人と出会ったよ。・・・そう。見返りが無いなんて、ボクは何てバカな事を言ったんだろうね。カミサマはちゃんとボクに与えて下さったよ。最高の見返・・・いやそんな言葉は彼女には似合わない。言うならそう・・・天使だ、天使。聞いてくれよキッス?カミサマはボクに天使を下さったんだよ?!


興奮を必死で隠しつつもキッスに話しかけたボク。それに反応してか、キッスはおもむろにバサリと羽根を広げ、ふるふると揺すった。
羽根がひらり、またひらりと舞い降りてくる。若干色が気になるけど、これは祝福の意味だよね?!うん、そうだ。そうに決まってる。
だって。

だって、そう。
ボクは今日、天使と出会ったんだから!




あの時。
キッスに頼れない以上、文字通りひたすら歩くしかなかったボクだった。
とりあえずグルメフォーチュンの町に行ってみた。着いたは良いけれど、ボクの店が何処に在るか探す気が起きないほどの惨状だった。当然誰もいなかった。この時間出現する猛獣も、遥か先まで気配すら無い。
立ったままでいるのもバカらしくて、地面にそのまま座り込んでみた。足を投げ出して。この地特有の乾いた砂がもわぁ、と湧き上がった。それも気にせずに、ばったり。仰向けになってみた。誰もいないんだから別に汚れようが何しようが良いじゃないか。そんな気持ちで転がっていた。
と、何気に顔を向けた先、家の残骸らしき瓦礫にとある物を見つけた。
恐らく其処に住んでいた住民が貼っていったのだろう。『娘へ。私たちは今、』から始まるメッセージ。離れて暮らす娘さんにでも宛てたのかな、そう思ったボクは、文中に書かれていた地名が過疎化が進み始めた小さな村で、此処からそう遠くない事も知っていた。加えてこれ以上此処でする事が無いボクだった。ボクは起き上がって軽く埃を払って、その地を目指して歩き出した。
その村が被害を受けていなかったら。移動手段を手に入れて、何処か寝泊りできる場所まで行こう。そう思っていた。
その場所に着いたのは夕刻を過ぎた頃だった。ボクは混乱を避けるべく、消命を使ってそっと村の入り口を通り抜けた。
幸運にも被害を免れたその村は、慌しさで一杯だった。村の規模以上に溢れかえる電磁波。あぁ、此処は避難所になったんだな。そう思ったのは村の中央、広場に辿り着いた時。
あちこちにテントや屋根だけのスペースが溢れかえっていた。家を失くした人たちのために、村人総出で働いている。
と、美味しそうな香りが風に漂って来た。
そう言えばもう夕食の時間だ。そうか、皆に夕食を配るんだな。でもこんな小さな村にそんな備蓄が有るんだろうか。そう思ってボクは広場の一番奥、木の陰からそっと配膳の様子を覗った。

その木陰から覗き込んだ視線の先に、彼女がいた。

どれ位見ていたんだろう。そう思い直すまで、ほんの一瞬のような、逆に永遠のような時間だった。
触れていただけの枝が揺れた。ボクの心臓の動きが指の先に現れて、枝をしならせた。
彼女は並ぶ人に一杯ずつ、食事を渡していく。その一人ひとりに何かを語りかける。笑顔で。受け取った男が頭を下げた。温かいその椀に対してなのか、それとも彼女の言葉になのか。
・・・彼女の声を聞きたいと思った。
知らず、木の陰から身を乗り出したボクがいた。
ボクの指の力で、メキ、と枝が折れた。彼女の耳がその音を拾う。

目が合った。

・・・ボクの時間と心臓に、大きくて太い矢が刺さったような、衝撃。
あぁ、これってあれか。どっかの誰かから何度も聞いた、夢物語。

・・・一目惚れだ。

ボクの頭はその言葉で一杯になった。






遠慮せずに、どうぞ?

そう言われたのは、次の瞬間。
ハッと我に返って、ボクはまた木陰に身を隠した。
消命していた筈が、彼女に気付かれた。
どうしよう。何故か焦るボクがいた。
騒がれると思った。ボクの素性は誰もが知っている。せっかくの出会いも騒動に掻き消えてしまうのか。
落胆して身動きが取れないボクとは正反対に、彼女は暫くこちらの様子を覗った後、列に並ぶ人たちの配膳に戻った。
どうしよう。どうしていいか分からないボクがいた。
思考回路はめちゃくちゃだし、動悸もおさまらない。そして隠れたくせに、彼女を見たい衝動が抑えられない。
何で隠れてしまったんだろう。後悔が襲ってきた。普段客をあしらっているように、笑顔で返せば良かったのに。
ボクは足元を見つめたまま、小さく溜め息をついた。

遠慮せずに、どうぞ。

目を閉じてさっきの言葉を頭の中に思い起こした。素敵な声だったな。優しくて、温かみがあって。それから凄く可愛らしかった。微笑んだ顔が、誰よりも輝いて見えた。まるで天使みたいだった。いや、天使なんだ。この前代未聞の惨劇に、天が遣わした天使。違う、天使だよ。この前代未聞の惨劇を最小限に食い止めたボクの快挙に、天が与えてくれた天使!
・・・なんて思っていたら、耳元に頭の中と同じ声が響いて。
反射的に動いた視線の先に、彼女がいた。








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