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それはある日の事だった。
冷蔵庫から缶を取り出し、プルタブを開け、口を付ける彼の姿になまえは思わず声を上げた。
「あ」
「え?」
「それ」
「ん?」
それが今日、彼となまえの朝一番の会話だったような気がする。
「おさ…」
「け」の一文字を彼女が言い終える間もなく、2mの長身は派手な音を立ててキッチンに沈んだ。
「ココーーー!!??」
その日、早朝、近所迷惑ななまえの絶叫が響いた。
*
「全く、信じらんない!」
なまえは病室で未だベッドに沈む青年のそばで大声で毒づいた。
「缶チューハイ一口で急性アルコール中毒で病院に運ばれるって、どんだけベタなのよ!!」
「…面目ない…」
なおも言い募ろうと口を開いた処で故意に通りがかった看護師さんの鋭い視線に慌てて押し黙る。
そんななまえの隣で腹を抱えてプルプルと震える青い髪の大男。
必死に笑いを堪える様はなんとも情けない。
「まあまあ、でも大した事なくて良かったじゃないですか」
そう控えめに宥めにかかる「彼」はココの知り合いにしては珍しく普通でなまえは何故こんな常識的な人間が非常識な彼らの友人なのか、未だ理解できないでいた。
小松と名乗った彼は今なお腹を抱えて声なく笑い転げるトリコとはビジネスパートナーだという。 料理の腕は(本人は否定しているが)一流で、その腕をトリコに買われ、今に至る。
ココを通じて知り合って1年弱だが、その人の良さとかいがいしさは傍から見る者からすれば、もはやビジネスパートナーの域を軽く越えてしまっていて。もういっその事、嫁に行ってしまえと思わずにはいられない。 いや、むしろトリコには勿体無さすぎるので嫁に欲しい。
それにしても、となまえは腕で目元を隠しぐったりしている同居人を見る。
酒は一滴も飲めないとは聞いていたが、まさか缶チューハイ一口でぶっ倒れるとは思わなかった。
そのモデルもびっくりの見目の良さからご近所では韓流俳優並にモテモテの彼である。
几帳面そうな見た目の通り、自身の体調も含めた生活管理はバッチリである。
そんな彼が缶チューハイ一口でぶっ倒れるとは(大事なのでもう1度繰り返す)
世の中に完璧な人間などいないといういい例だとなまえは思った。
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