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「あれっ、おはよう。帰らなかったの?」 「おはよう。ボギーを放っておけなくてな。食べられそうか?」 「何?あ、スープ!食べる食べるー。ちょーだい。髪も乾かしてー」
キッチンのスタージュンの手元を覗けば野菜たっぷりのスープが作られていて、皿とスプーンを用意しながらソファで眠っているボギーを眺め見た。
「じっとしていろ」 「ボギー二日酔いしんどそーだね、顔色悪い」 「お前は?」 「ちょっと頭痛するだけだから平気。ありがと。髪も。昨日ごめんね、何言ったか殆ど憶えてないんだけど、酷いこと言った?俺」
熱を放出する手櫛で髪を乾かして貰いながら謝れば、少し黙ったスタージュンはくつりと苦笑を漏らすに留める。
「いや、構わん。昨晩は私も言い過ぎた。悪かったな」 「? うん。食べていい?」 「ああ」
バスタオルを肩にかけたままダイニングテーブルでことこと煮込まれてほろりと溶けるような野菜をほこほこ食べてからシャツに袖を通し、スーツに着替える。 時計を見れば程よくいい時間で、飴色のオーダーメイドで作って貰った仕事用バッグの中身を確認してからネクタイを締めた。
「今日は休み?」 「ああ」 「じゃあこれ、鍵預けとくからボギーのことお願い。夜は?」 「お前が帰って来る頃まではいると思うが」 「おっけー、じゃあ行って来ます。何かあったら携帯に連絡して」 「電池切れてるぞ」 「会社で充電するから大丈夫。三虎さんそろそろ降りて来るかな、じゃあね!」
スタージュンから携帯を受け取ってぱたぱたと慌ただしく玄関を出た。ホールを出てすぐのエレベーターが丁度止まって、扉が開く。 今日も喪服のような漆黒のオーダースーツをラフに着崩した三虎がいて、にこっと笑って挨拶をする。
「おはよう、三虎さん」 「…お早う」 「昨日はお邪魔しました。ごめんね?手間かけて」 「扉は直しておけよ」 「わかってるって。手配しとく」 「喧嘩はいいのか」 「喧嘩?ああ、よく憶えてないけど取り敢えずスターには謝っといたよ、さっき」 「ふん…昨日、飛び込んで来るなり絶対帰らないと喚いて煩かったが。都合のいいところだけ忘れているとは便利な頭だな」 「処世術と言ってよ。ほんと、便利過ぎて困るよ俺の頭」 「馬鹿か、嫌味だ。つまらん」 「ヤダー!何でそんなからかうの!って俺が騒いだら三虎さんつまるの?」 「なわけあるか」 「だよね。じゃあいいじゃん」
高層階から一気に地下駐車場まで降りて、三虎の車に二人して乗り込んだ。
「それで?原因は何だったんだ」 「ロティーに酒乱牛のソティが出たの。動物性アルコールを含む食材は使わないように言っておいたんだけど。多分それでスターと言い争いになったんだと思う」
助手席に座って三虎の今日の重要で外せない予定の確認を手帳を見ながら口頭で説明し、部下たちから上がってきた報告書のまとめと成果の報告をする。
「なまえ」 「はい」
二日酔いがあるはずなのに、すっかり仕事用の顔つきをしているなまえを見やって何か言おうと思ったが止めた。呼んだきり何も言わなくなっても気にしてない風のなまえはがさごそと膝の上で書類の整理を始めていつも通りの朝だ。 慣れない喧嘩(のようなもの)をしても、多少体調が良くなくても相変わらず仕事となると隙の無い鋭利な様子のなまえに、新しい大口の仕事を全部任せてみようかと考えながら、三虎は車を走らせた。
**ミライノオハナシ。 (三虎さんて寝る時半裸なんだね) (………) (酔っ払った勢いでやらかしたのかと思って焦ったよー、朝起きた時一緒のベッドにいるから。ショタ趣味だったの!?って) (んなわけあるか) (だよね〜(笑) あ、社長信号赤なのに無視したー。安全運転でお願いしまーす)
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