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あれは、社長と副社長の秘書的バックアップポジションで仕事をするなまえを連れて得意先が用意した会食の席に着いた時。流石に"仕事用"の気構えでいたためか食事中は平気そうな顔をしていたが、レストランを出るなりなまえはばったりと倒れた。かと思えばすぐに意識を取り戻してわぁわぁと泣いて子供のように縋って来たのである。泣き上戸らしい。
そしてなまえの実兄であり時間の作れそうなスタージュンに迎えに来るよう言ってから強力なアルコール分解作用を持つウコンウンコの錠剤を飲ませたのだが、たまたまアレルギーがあったのか、激しく咳を吐くようになって病院沙汰にまで展開した。つまりなまえは外部からアルコールを分解するものを摂取できないということであり、自然と醒めるのを待つしかない。
気管が炎症を起こし、それらを抑えるための他の薬を投与すると特殊な体質のせいかそれも余計酷くなった。なまえはグルメ細胞を持つ者の"標準"の何倍もの毒素に対する抗体を持っており、殆どの毒が効かないかわり薬の類も効かないのだ。そのはずが、身体が生まれて初めてアレルギー反応を引き起こして特別過敏になっているところに薬を投与したものだから余計悪くなったのである。お陰で数日入院することになり、なまえにとっては踏んだり蹴ったりの事態だろう。
退院する時、自分の一生でまさか入院することがあるとは思わなかったと笑ってはいたが。


「なまえ、暑い」
「知らない!」
「…………………はぁ」


気の済むまで放置しておこうと決めて、テレビのスイッチを入れた。暫くして静かになったと思うとなまえは泣き疲れてか眠っていた。酔っていたのも手伝ってぐっすりだ。明日は二日酔いだな、と思いながら携帯を手に取る。
ワンコールを入れておけば、程なくして折り返し電話でなくてぶち破られた扉からスタージュンが現れた。


「…お世話お掛けします」
「本当にな。弟はどうした」
「なまえと同じで動物性アルコールで酔っ払って寝てます」
「…ウコンウンコは?」
「…。飲ませましたがアレルギーなんかは無く。なまえだけです」
「そうか。これを私のベッドに放り込んでおけ。絶対帰らないなどと喚いていたからな」
「…すみません」
「構わん。さっさとしろ」


ソファで三虎にぴったりとくっ付いているなまえを引き剥がし、なまえの階と同じ間取りのベッドルームに運び入れ、キングサイズのベッドに寝かせる。
相当泣いたらしく、目元が余計赤くなっていた。が、眠ってくれて良かったと思いながら額に張り付く前髪を避けてやり、ぽんぽんと頭を撫でてから部屋を後にする。
ぐしょぐしょにされたYシャツを脱ぎながらバスルームに向かう三虎にぺこりと頭を下げ、玄関ホールに転がった扉を取り敢えず壁に立て掛けてからスタージュンはなまえの部屋に戻った。


**


「……っう〜〜〜〜」


酷い頭痛と倦怠感に目を覚ませば、嗅ぎ慣れた腹の底にずしんとクる重たいムスクにあれっ?と首を傾げて上体を起こす。
肌触りの良い薄い布団に包まって眠っていたのが三虎のベッドだとわかってあぁ…と声が漏れた。ロティーに出された酒乱牛のソティでボギー共々酔っ払って兄を呼び付け、何やら言い争いをして家を飛び出したのだったかな、とずくずく痛む頭をほぐしながらぼんやり思い出す。
ベッドサイドの時計を見ればまだ早朝で、外も暗く肌寒い。飛び出したあと同じマンションの最上階の三虎を訪ねたのだろうが、その後が思い出せない。まあいいかと再度横になって、部屋の主と背中合わせに目を閉じた。

次に目を覚ました時間は仕事に向かうまでには十分に余裕のある時間で、三虎が起きない間にするりとベッドルームを抜け出す。キッチンで冷蔵庫の中身を勝手に使って適当な朝食を作った後、自分の家に戻るのに玄関に向かってギョッとした。
玄関扉が破壊されていて、壁に立てかけられているのを見て、十中八九自分だろうなあと申し訳ない気持ちになりながら始業時間が過ぎた頃に修理を手配しなければと考えながらエレベーターで自分の部屋まで降りる。
ボギーはまだ春休みだし、スタージュンはわからないが会ったら取り敢えず謝らないとな、と思いながらボタンの飛んだシャツをクリーニングに出すもののカゴに放ってバスルームに飛び込んだ。ゆったり温まった後ウォークインクローゼットから新しいYシャツとスーツを出して来てリビングに戻ると兄がキッチンに立っていた。



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