04

「じゃあ、私は皆を集めて先家行くけど、ルドガーは書類とかはちゃちゃーっと終わらせちゃって、帰り際にでも買い出しよろしくー!」
「はいはい……はあ」

兄さん、は。指名手配さてれいて、逃走中で、俺に何も言わないで勝手に一人で全てを背負おうとしてて、それで。

「どういう、ことだ……っ?」

違う、落ち着けヴィクトル。ここは分史世界。可能性の世界なのだ。何度も何度も体験してきた。何度も何度も壊してきただろう。ここは、自分たちの世界と似ていて違う。

(久しぶりに来たからか……それとも)

あの日の夢から動揺しているのか? らしくもない。さっさと終わらせよう。エルの元に、帰ろう。彼女自身が時歪の因子だ。

「どうかしたの?」
「っあ、……ああ、いや。すまない。君達の会話が聞こえてしまって、少し懐かしく思えてね」

先程ルドガーと別れたらしい名前が道に突っ立っていた私を不審に思ったのか顔を覗き込んできた。

「ふうん? すっかり歳取ったねえ」

心に重く突き刺さった。確かにそうかもしれない。
そういえば彼女は人見知り、とまではいかないが、こうも容易く人に話しかけられるような人柄だったろうか?

「ああ、そうだね。そういえばお嬢さん、少々道を訪ねたいのだが」
「ん? えー? まあいいけど。何処行きたいの?」
「……? ああ、ヘリオボーグ研究所というところなんだが」
「おっけ、付いて来て」

なんとなく、違和感を感じた。初対面の、それも異性であり年上の者に対する言葉使い。彼女はこんなに友好的な性格だったろうか。頼まれ事をしたときもこんなに嫌な顔はしなかった。おつかいなどは別だとして。

「このまままっすぐ行ったところにある大きな建物が研究所」
「あ、ああ。ありがとう」
「何しに行くの?」
「少し、野暮用でね」

気付いたら研究所付近まで案内をしてくれていたようだ。隙をついて時歪の因子を破壊するつもりでいたが。今からでも遅くはない。背の裏で忍ばせた銃を固く握る。

「あーあ、折角フルコース、食べられるところだったのに」
「え?」
「ね、髪、染めたんだね? 似合ってる」
「あ、」

くるりとこちらを向いた名前は微笑んでいた。そして遊ぶように私の毛先に触れる。突然のことに拍子抜けしてしまった。そんな私の顔を見て、名前はくすくすと可笑しそうに笑った。

「わからないとでも思ったの?」
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