「…ん?」
教室の前に着き、教室に入ろうとすると視線の先に廊下から教室を覗いている綺麗な髪の長い女の人。
何してるんだあの人…。 声をかけようと思ったがその人はどこかへ行ってしまったので出来なかった。
疑問に思いながらも教室に入る。
ガラッ
「…………」
教室に入って唖然とする。 何なんだこの状態は。
簡単に言うとツナがパンツ一丁に、そしてそんなツナを睨みつける男子達。 パンツ一丁ということは死ぬ気状態になったのだろうけど、全く状況が掴めない。
そんな時、よく知ってる声が私の名前を呼んだ。
「杏!」
「あ、武!」
私を呼んだのは紛れもなく武だ。 武はこの険悪な空気に似合わないほどの爽やかさで私を見る。
「ねぇねぇツナ一体どうしたの?」
「ああ…ま、やる時はやる男だって事だ。」
「?」
一体何の話なのか全く掴めない自分。 武も特にそれ以上は何も言ってこないから余計に気になるよ。
…後で京子と花に聞こう。
そう決めた直後、持っているおにぎりのお皿が少し軽くなった。
「#next#のおにぎりもーらい!」
「え、ちょ武!ってああー!」
「何で」と問いかけようとしたら既に武は食べていた。 行動早っ!
「…あのー…」
「ん?勝手に取ったことに怒ってるのか? それなら仕方ないぜ!杏のが食べたかったんだからな♪」
「(いやいや、意味が分からない!)違くて、味…どう?」
別に勝手に取ったことに怒ってるわけじゃない。
やっぱり作ったものの味が気になるのは当然だろう。
…あ、あと見た目ね、うん。 まぁ見た目はあまりよくないのは分かってるんだけどさ…。
だけど武の返答は私の予想しないもので。
「普通に美味いぜ?杏って料理上手だな!」
「嘘っ!本当?すっごい嬉しい!武ありがとー!」
「嘘じゃねーって!こちらこそありがとな!」
「!」
そう言って武はくしゃくしゃと私の頭を撫でるようにかく。
驚いたけど、なんだか心が温まるようで嬉しく感じた。
「おい、野球馬鹿。」
そんなほのぼのとした空気の中入ってきたのは獄寺くんだ。
「お、獄寺じゃねーか!どうしたんだ?」
「どうしたんだ?じゃねーだろ! コイツのどこが料理上手なんだ!?目腐ってんだろ!」
「っ、獄寺くんうるさい!別に獄寺くんにあげるんじゃないからいいでしょ!」
「なっ!別に俺はいらないとは言ってねぇ…!」
獄寺くんは本当に失礼な人だ。 何だっていきなりそんなことを言われなきゃならないのか。
しかも最後なんか矛盾してるし…。
「…獄寺くんよく分かんないよ」
「う、うるせぇっ!」
「…え?ああっ!」
そう言った瞬間、再び先ほどと同じ現象が起こる。 つまり獄寺くんにおにぎりを取られてしまったのだ。
いやいや、今あきらかに私のおにぎり見て馬鹿にしてたよね? なのになんで食べるのさ。
「ちょ、何!?馬鹿にしたくせに食べるなんて…!」
「……うめぇ」
「…え?」
そんな獄寺くんからは信じがたい言葉。 あ、分かった。まさかの空耳かな。
「人が褒めてやってんのになんだその顔」
…どうやら空耳じゃなかったらしい。
「…見た目はマズそうだけど味は悪くねぇよ。 ………ありがとな」
「へっ?」
獄寺くんから言われた言葉はさっきの黒髪さんと同じ内容だった。
ていうか、最後にお礼言った?あの獄寺くんが? うわぁ、なんか変な感じがする。
「…あ」
そんな時、気づいた。
そうだ、どうしよう。 もともと3つあったおにぎりはもう無い。
あと1つはツナにあげようかなって思ってたんだけど…。
「ツナ…」
「どうしたの、杏」
ツナは疲れたような表情をしていた。 男子から睨まれているからだろう。
「あのね、ツナのおにぎり…なくなっちゃったから今度なんか作る!ごめん!」
「え?え?…ええぇっ!」
「…って言ってもいつも家で食べてるよね!まぁなんか作るよ!」
「「「「ちょっと待ったあああ!!」」」」
そんなやりとりをしているとクラス全員からの突っ込み。 私、なんか変なこと言った?
「杏ちゃん!いつも家で食べてるってどーゆーこと!?」
「ツナお前…俺らのおにぎり全部食ったくせに杏ちゃんからもなんか作ってもらうのかよ!」
もしかして、かなり面倒くさい事になった?
そうだよね、ほとんどの人に同居してることまだ言ってないんだった…。
「10代目!本当なのですか!?」
「ツナ、どういうことなんだ?」
「杏〜?あんた…」
「(ひいい!俺めっちゃ敵視されてる…!)」
ほとんどの者が私達に逃すまいというオーラを放ちながら近寄ってくる。
私は事情を説明し、なんとか納得してもらったのだ。
あとから聞いた話。 ツナが京子のおにぎりを食べる勢いでみんなのおにぎり食べちゃったんだってね。
そうだツナ。 その時言ったツナの言葉が京子に告白したみたいな感じになってるよ。
…まぁそのことは言わない方がいっか。
そして私は今日、料理を頑張ろうと思った。
…うん、頑張ろう。
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