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メリー・メリーゴーランド
 

この人と一緒に生きていたい、
生きているなら一緒にいたい、
生きている限りは一緒にいたい、

それなら一緒に死ねば叶うんじゃない?






『メリー・メリーゴーランド』










あの懐かしい町を出て、もう何ヵ月経ったろうか。無関心な大都会はぼくらの外側でだけ騒がしく、互いに干渉し合うには人々は忙しすぎる。無味乾燥の空気を吸って吐いて、互いで湿らせ合ってやり過ごす毎日。逃げ込んだホテルの部屋は豪奢な分だけ怠惰が混ざって、肺から爛れていきそうだ。だだっ広いベッドに横たわり戯れ合い、いつまでもそんな毎日が続くものだと思ってた訳じゃあ、ない。
といったって、こんな日が来るとも思ってなかったのだけれど。



「承太郎さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ…すげえな、お前のスタンドは」
だって、彼の腕があまりに優しくて、彼の眼があまりに綺麗だったから。その腕の中でその眼に見詰められたまま死ねたらなあと思って、そうしたらそれがあまりにすとんと胸に収まってしまったのだ。だから。

「こんなに血が出てるのに、全く痛くない」
もうぼく充分だよって言ったら、彼もそうだと言ってくれた。それでぼくらは死ぬことにした。世間の目を逃れてこの広すぎる部屋に逃げ込んだけど、追われた訳でも追い詰められた訳でも何でもない。充分に満たされたまま、幸せなままで死ぬことにしたのだ。いつものだだっ広いベッドで、横たわって戯れ合って。

「ん…でも、もっと血が出てぼくの意識が薄れたら、ヘブンズの効力も薄くなるかも」
「その頃にはおれだって意識が薄くなってるだろ、平気だ」
彼の手首をぼくが切り、ぼくの手首を彼が切る。繋いだ手の間、合わさった腕を伝ってシーツを汚す血は、等分に二人のものが混ざっているんだろう。混ざり合った遺伝子が何かを産み出すことなんてなくても、そう考えるだけで幸せだった。何かを産み出せるならもっと幸せだったかもしれないけど、それならぼくらはこの道を選んでやしない。



「…寒いね」
「そうだな、シーツが濡れてる」
ぎゅう、と互いに力を込めると新たな血が溢れ出した。シーツに零れれば冷たいそれは溢れた瞬間だけひどく温かくて、やっぱりぼくは彼が好きなんだなあ、と今になってまた実感する。彼から零れる物質よりよほど、彼自身の方が。もうすぐ失われてしまう彼の温もりが。

「承太郎さん、好き、大好き」
「おれもだ」
「じゃなくて…ちゃんと、言って」
「…好きだ、露伴」



言うなれば、ぼくらはメリーゴーランドに二人離れて乗ってしまったみたいなものだ。中途半端な距離は愛し合っても近づける訳じゃなく、くるくる回るそれなりの楽しさも、本当の意味で一緒に回っている訳じゃあなかった。途中下車を選んで退場口へ歩く途中、ぼくらは初めてみたいに手を繋ぎながら笑っている。相変わらず世界は騒がしく回っていて、忙しすぎる人々はぼくらに目を向ける暇もないだろう。

そうしてぼくたちは、誰に見咎められることもなく死んでいく。






(あなたと二人きり、世界にさよならを)






―――――――――

cupboardloveの食器棚さんにいただきました!

1000打のイラリクにて承露で駆け落ち心中をお願いしました。
心中が一番の愛の形ではあるなあと思っていて、いったい棚さんどんなお話を書かれるんだろうとドキドキでしたが…なんてロマンチックなの!(川尻しのぶ)
なるほど、穏やかなんですねえ…本当に幸せそうだなあ…
素敵な文章、ありがとうございました!

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