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排他
 

 ベッドに横たわった承太郎さんが、「そろそろ散歩に」と言う。
「駄目ですよ、あなたは家猫なんです」
「おれは猫だったのか?」
「狼っぽいですけど、ぼくに犬の世話は出来ませんから……猫も嫌いですけどね、でもまあ、あなたなら許しましょう」
 ホットミルクの入ったマグカップをサイドテーブルに置いて、ぼくは彼の横に腰を下ろした。真っ白くて瞳がグリーンの大きな猫。腹部を撫でると、気持ちがよさそうに目を細める。無駄のないしなやかな筋肉が、呼吸に合わせて上下する。次は自分じゃあ掻けないところを触ってあげようか、さて、どこが気持ち良いのかな。
「外に出たい」
 承太郎さんが唸り、ぱちぱちと瞬きをする。彼がホテルに帰らなくなって3日だ。
「やっぱり外を知ってる猫を家に閉じ込めるのって難しいですよね。出掛けたことが無くて、ドアや窓の向こうに何があるか知らないから、興味も持たないのが理想だな。ペットを外に出すのって怖いじゃあないですか、どこかで事故に遭うかもしれないし、死期を悟ったら行方をくらますっていうでしょう。あなたなんか本当に……そんな感じがするから」
「随分直接的なことを言いやがるんだな」
 しかめ面の彼にぼくは「ええ」と頷いた。
「別に、承太郎さんが何かをやる必要はないでしょう。よく分からない理由で死ぬ必要もないし、死ぬかもしれないと思う必要もない。あなたはもう、ぼくのものですよ。ここにいれば何も困らない、温かい寝床もあるし、美味しいご飯も出してあげる、ほら」
 ホットミルクを口に含み、ぼくは承太郎さんにキスをする。唾液と一緒にぬるい液体を流し込むと、姿勢が悪かったせいで承太郎さんが咳込んだ。
「ああ、気管に入っちゃいましたか」
 ぼくは承太郎さんの頭を掻きまわしたあと、面積が足りないと思って彼に寄り添うように寝転んだ。ぎゅうと抱き締めたら温かい。首筋に鼻先を埋めて、ぼくはふふふと笑う。承太郎さんはまだ噎せている。
「それとも何か、ぼくがいるだけじゃあ不満なんですか? どうしても外に出たいんですか? ねえ、外に出てどうするんです?」
 語りかけると少し涙目になった承太郎さんは、すうはあと深呼吸をした後、「それもそうだ」と溜息を吐いた。
「海が……見たいが。二度とあんたに会えなくなるよりはマシかもしれない」
「本気で言ってます?」
「さあ、気紛れかもな。なにせおれは、猫だから」
 綺麗な顔に悪い表情を浮かべられるとどきどきする。全部あげてしまいたい、彼の望む何もかもを、ここにいてくれることと引き換えに。
 承太郎さんが長い腕で、膝の辺りにわだかまっていた毛布を引っ張り上げる。ぼくは枕元のリモコンで照明を落とす。
 闇の中で彼の指が不埒な動きをするから、まだぼくに対する興味は失われていないみたいだ。ぼくのところにいるのも気紛れだっていうのなら、このまま閉じ込める方法を探してみないとな。いなくなられたら寂しすぎて、ぼくがこの家にいられなくなるよ。





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エレメントの斎野しぐれさんにいただきました!

ついったでときのさんがリクエスト募集しておられたので自重せず頼んでみました。
30分かそこらで出来上がってました。
オラもうびっくらこいたぞ!
「(動物は飼えないけど)承太郎を飼う岸辺」というのがリクエストでした。
もともと何となく岸辺って動物を飼えなそうだぞっていうネタを温めていたのですが、どーせかかんだろー!と。
ときのさんに書いてもらったらステキになるんじゃあないかと思って頼んでみたのですが、大当りでした!!!
こういう頭狂ってるよーなの大好きですわ…つくづく彼女は私のツボを付いてきます。天才やな。
ときのさんありがとうございました!!


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