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紙魚
 

「最近、記憶がなくなる」と承太郎が言った。
「手帳にスケジュールを書いているんだが、誰とどんな手段で約束したのか思い出せない。昨日の夕飯も思い出せないし……あまりに顕著だからスタンド攻撃を疑っている。あんたに何か異常がないか診て欲しいんだ」
「あなた、ぼくがあなたの記憶を読みたくないって分かっててそれをおっしゃってるんですよね?」
 露伴が問うと、承太郎は「すまねえな」と肩を竦めた。
「でも、先生に見られて困る様なことはない。先生が嫌がる様な記述も……余程さかのぼらなければないだろう。杜王町に来てから、の部分で十分だ」
 そう言われてしまったら断る理由もなかった。近頃やっと確信の持てるようになった彼の愛情に、少し浮かれていたこともある。だが彼にスタンドを使った途端、予想外のことが起こった。
 今まで大勢の人間を本にしてきたが、こんなことははじめてだった。ずるりとページを割って出て来た男は、月明かりに似合うグロテスクな美しさと異質な空気を持っている。身体を退く前に手首を掴まれて、露伴は動けなくなった。スタンドを解除しようとしたが、なぜか、神経の何もかもが言う事を聞いてくれない。
「てめ……えは」
 ベッドに横たわった承太郎が目を見開いた。露伴が身体を切り開いてしまっている所為で、肩で息をしている彼は、「逃げろ」と唸る。
「先生……そいつは、あぶねぇ」
「日本人の……、まだ子どもだな」
 赤過ぎる唇が動いて、露伴に近づいてきた。息を呑んで振り払おうとしたが、力で敵わない。首を噛まれ、この男が一体何なのか分かる。分かってしまったからこそもう手の打ちようが無いことも悟る。痛みは一瞬だけで、あとはずっと奪われる快楽だ。ずるずると未知の感覚を引き摺りだされてもう立っていられない。体勢を崩しかけたら男に腕を回された。露伴は喘ぎ、どうしようもなく男にしなだれかかる。
「まあ……、お前にしては趣味がいい。なかなか色っぽい顔をするじゃあないか」
「一体、何を」
「承太郎、キサマのものはDIOのものだ。言っている意味が分かるな?」
「そんなこと……」
 男は露伴の顔を上向け、愛撫するように頬を舌でなぞった。
「……っ、あ」
「興奮しているな……、なあ、センセイ?」
 はじめから疼きを感じているが、片言の呼び名にはただ恐怖を感じる。こんな状況では肯定も否定も出来やしない。朦朧とした意識の中で、足の筋肉が役に立たない今の露伴はさぞかし重たいはずなのに、男に人形のように扱われる。
「承太郎と似た匂いがするか? わたしの身体は彼の先祖のものなんだよ。ちゃんと遺伝していたら、具合が似たようなものかもしれないな?」
「クソ野郎……!!」
 承太郎が身体を起こそうとするがうまくいかないようで、ページだけがパラパラと揺れる。そのうちに男の冷たい指先が、露伴の胸元から素肌の上へ滑り込む。嫌だと心の中で喚いたところで誰にも伝わらない。反則だ、この自分が何も出来ないだなんて。
「う……あ!!」
「てめえは……死んだ筈だ!!」
 承太郎が吠えた。
「おれが殺した、そうだろう!?」
「だから、何だ」
 男の、人のものではない瞳の色が、すっと冷えた。
「お前はわたしに支配されている。お前がわたしを記憶にとどめる限り、私がお前を食い潰す。お前の求めるものと、わたしが叩き潰すものは全て同義だ」
 唐突に、乱暴な動作で口づけられてがくりと顔を傾けた。承太郎の記憶が消えるというのはこの男のせいだったのだろうか。たしかにこんなものを記憶のなかに飼っていたら、あちらこちらに穴が開いてしまいそうだ。しかし、どうして今更。
「そんな目をするな。わたしを何度殺したところで意味はない……お前が何かを欲するのならば」
 はっとした露伴は、笑んだ男に掻き抱かれながら必死で気力を集める。どうしたってこのまま攫われてはいけない。
 承太郎と目がかち合った。
 早く手を振り上げてページを閉じるのだ、早く、手を。







―――――――――


エレメントの斎野しぐれさんにいただきました!

ついったで絵→話もおもしろいかも〜と、ときのさんがおっしゃっていて、描いていいのよ////なんて言ってみたらまじで書いてくださいました…
ときのさんチョイスのDIO露絵から話を作ってくださいました!珍しい組み合わせにときのさんの好奇心が擽られた模様…フフ、作戦通り(´ー`)


軽〜い気持ちでのせた例のジャイアニズム的台詞もしっかりいれてもらってます。ときのさんの文章に私のアホ台詞が浮いてしまってないか心配…もっとカッチョいい言い回し考えたほーがよかったかな(笑)
しかし視姦ですね。最高です。
ときのさん本当にありがとうございました!


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