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実りの頃は
 



例えばの話だが、ここに二つの林檎があるとしよう。一つは新鮮で固く、甘酸っぱいもの。もう一つは熟して柔らかい…いっちゃあ、すこし味がぼけているものだ。
君ならどちらを食べるね、東方仗助。


ここは露伴の家のリビングで、目の前のテーブルにあるのは林檎ではなく湯気のたつティーカップが二つ。俺が始めた当たり障りのない世間話を遮ったと思ったら、そう質問された。例えば、ねぇ。


「いきなりなんなんスか露伴先生。」

「いいから答えろ。」


その傍若無人な態度、スッゲームカつくぜ…。なんて、口に出そうものならネチネチ嫌みを言われそうなのでやめておく。年長者に対してその口の聞き方はなんだと憤慨する奴の姿が目に浮かぶようだ。


「そりゃあ新鮮な方がいいっしょ。俺ちょっと古くなった果物とかダメなんスよねぇ〜。なんつか、あのスカスカした感じとか。」

「そうだろうな。ちょっと前まで僕もそうだった。でも最近、ちょっと腐る手前まで熟した果物もいいって思えてくるようになったんだ。むしろ、腐らせるのもいいかもしれない。」

「…………はぁ。」

「僕も歳を取ったってことかな…?」


ソファに身を預け、少し遠い目をした露伴がボソリと呟く。その視線は俺から外れて背後へ注がれていた。

聞くだけ聞いといて後は適当に突き放すなんて、つくづく露伴は優しくない会話をする。なんだこいつ。つまり何が言いたいんだよ。上手く質問の異図が汲み取れなかった。結局今のって俺に質問した意味ってあったか?だいたい、俺と話してるのにコイツは全然俺のことなんて見ちゃあいないじゃないか。


「…言うほど変わらなくないっスか?俺と露伴の歳って。」

「と、思うだろう?違うんだよなぁ。僕からしたら高校生なんてただのガキだね。」


ムカつく。子供扱い。
どうせ僕様の言うことはお前風情にはわからないだろう?って、口に出さなくともそう顔に書いてあんぜ。露伴センセー。
喉の奥がすこし苦しくなって、目の前の紅茶を飲み込んで誤魔化す。少し冷めてちょうどいい温度だ。甘苦い味が広がったあと、ほんのりと林檎のような薫りがした。コイツの俺に対する態度に優しさを求めること事態、間違っているのかもしれない。


「…なめてんじゃねースよ。」


意識して、低く挑発するような声を喉から絞り出した。立ち上がって荒々しく胸ぐらを掴む。ああ、なんでだろうか、コイツを相手にすると自分でもわけがわからないほど頭に血が上ってしまう。
髪型を貶されたわけでも、何でもないのに。こいつにガキ扱いされるのがどうしようもないくらい嫌だ。こんなんだからか、俺の思いは実る気配を一向に見せない。



「……やっぱり青いな。まぁ、酸っぱいのも悪くないけど。」


ああ、五月蝿い。五月蝿い。こんなことがしたいんじゃないし、そんな言葉を聞きたいんじゃないのに。でも、もう進めた歩みを元に戻すことも出来なかった。

これ以上俺を苛立たせる言葉が紡がれないようにと、噛みつくようにしてその赤を塞いだ。





右京
(2011.11.24.)

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掌で転がされる仗助君。
報われないなぁ……




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