:: PICTURE TEXT
 

きになって、好きになった。
 


テラス席の白いテーブルクロスに日が当たり、眩しく反射する。

今週の日曜日、一時にカフェ ドゥ・マゴで待ち合わせ。それが彼との約束だった。
約束の時間にすこし余裕をもって現れた承太郎さんに、自分も丁度来たところだと告げて席を勧める。かれこれ30分以上待っていたことは内緒だ。


僕、岸辺露伴は今日、空条承太郎にヘブンズ・ドアーをかける。僕を好きになるようにと。人間として終わってるとか、そういうことはこのさいすべて無視する。彼の気持ちも、だ。僕を突き動かしているのは今や好奇心だけである。普段ストイックな人間の愛情表現なんてなかなか貴重な資料になるだろう。彼が僕を好きになったら、どんな風に僕に微笑みかけるんだろう?どんな休日を過ごし、愛の言葉を囁き、どんなキスをされるんだろう。危うく思考が深夜にはいりかけたところで、慌てて現実に引き戻す。少し冷めたブラックコーヒーに写る自分が、気まずげに見つめ返してきた。


今日はこのあと水族館にいく予定だ。海の生き物についての海洋博士からの解説が漫画の資料に必要だなんだかんだと、無理矢理ともいえる理由をつけてやっとのことで誘った。この場で、もしくは水族館かで、ヘブンズ・ドアーをかける予定だ。問題は彼のスタンド、スタープラチナの反応速度より早くヘブンズ・ドアーのスタンド攻撃を完了させなければならないことだ。
正面からのガチンコ対決になるかもしれない。はたして実行できるのだろうかという心配をよそに、そのときはあっさり訪れた。


「ヘブンズ・ドアー!」


ガクリと項垂れ、めくれ上がる白いページ。うまくいったようだ。興奮を抑えながら目的を遂行する。白い紙にはびっしりと彼のすべてが書き込まれていた。当然、彼が僕のことをどう思っているのかも知ることはできたが、僕は敢えてそれを読まなかった。怖いのだ。本当のことを知って、それを受け止められる自信がない。それくらい僕は彼に想いを寄せているらしい。これはもはや好奇心なんかではない。もっとたちの悪いものだ。正直、気づきたくはなかった。こんなことをしてしか思いを遂げられない自分が酷く惨めに思え、悪態をつく。


こうなったら、一度でいい。夢を見させてくれよ。


伏せられた濃く長い睫毛を見つめていると、目蓋が震え、ゆっくりと瞳が開かれた。そしてそのガラス玉のような緑に見つめられる。


「…承太郎さん?」


僕は沈黙に耐えきれず、恐る恐る声をかけた。今更ながら罪悪感が出てきたかもしれない。それくらい綺麗な瞳をしていることに僕は気づいた。だって、こんなに近くで彼を見つめることはなかったから。こんな綺麗な人に、僕は何てことをしてしまったんだろう?鉛みたいに重くなった胸がずしりと僕を苛む。


「先生、どうして泣いている…?」


不思議そうに首を傾げた承太郎さんに、そうたずねられた。
指摘されて初めて泣いていることに気づき、驚く。嘘だろう?慌てて僕はこぼれた涙を拭う。次から次へ、どうしようもないほど止めどなくあふれてくるそれを、伸ばされた大きな手にそっと拭われた。言い訳も、謝罪の言葉もうまく紡げず、僕はただ俯いてしゃくりあげることしか出来なかった。



暫くして涙が止まった。醜態を晒してしまったことを謝罪し、それから予定どおり水族館へ向かった。
驚くことに、ヘブンズ・ドアーは僕の後悔を汲み取ったらしく、空条承太郎へのスタンド攻撃を取り消したようだ。そんなことってあるんだろうか?水族館を見終わったあと、出口でそのまま別れた。期待をしていた、それこそ漫画のようなことはまったく起こらなかったが、水族館では無口な彼が珍しく饒舌に語るのだということを知ったのは大きな収穫だろう。
また話を聞きたいと、今度は漫画の資料になどと言い訳をせず誘ってみようか。




(2011.11.15.)
右京
――――――――――
書ききれなかったけど、実は両思い・だけど好きになっても態度には出さないクールな太郎さんなのでした。
とりあえず露伴が最低…でも太郎さんはそれを受け止められる男だと思うの…ゴクリ




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -