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もと暗し
もう朝とは言えない昼近くになって、承太郎は寝台から起き出した。
窓を開け、遠くに見える海を望む。秋も終わりらしく、乾いた外気が吹き込んでくる。最近論文漬けだったせいか、どうやら少し視力が落ちたようだ。遠くに見える波の形をとらえようと目を凝らすと、ホテルの部屋にあるカーテン、椅子、悉くの輪郭がぼやけていった。
「色々試してみたけどあなたがベストだったなぁ」
相性がいいっていうんですかね?無駄に演技したりしないし、めんどくさくなくていい。
背後から露伴の少し低く掠れた声が聞こえ、急激に意識を部屋に戻される。寝台に横たわっているであろう露伴を目だけで振り返る。
返事をするべきか少し迷っているうちに、また露伴は喋りだした。
「ストイックな方だと思ってたけど、案外遊んだりするんですね。今まで何人としたんです?」
「…何、言っている」
まさか、僕一人だなんてことないでしょう?
と、露伴はおどけてみせる。どうやら自分はそういう人間であると思われていたらしい。それも無理はない。男とやって快感に思う身体なんて、普通じゃないと自分でも思う。
「君に話す義理はないな。」
「…ふぅん、秘密主義ですか。結構もったいぶるんですね」
まぁ、いいけど。
と、寝返りをうったような布団の擦れる音がした。今背後の露伴がこちらを向いているのか向こうを向いているのか解らなかった。
露伴はひとつ誤解をしている。その誤解を解くべきか否か、悩む。もういっそこのままにしようか。話したところでその誤解が解けるという保証はない。口を開いて出てくるものなんてだいたい出せばあっけない。しかし、出さなければ思いの外伝わらないという事実に少し苛立つ。結局のところ、お互いに判ったような気になっているだけなのだろう。多くを誤解しあいながら。ならば、このままでいいと思うのだ。
遠くに見える雲の向こうを見つめ、ため息を吐く。吐いた息は少し白くなり、目でとらえきる前にやがてすぐに消えていった。
「…何、笑ってるんですか?」
少しおもしろく無さそうな声が聞こえた。指摘されて気づく。いつの間にか笑っていたらしい。
「…ああ、なんだか笑えてな。」
「…何が…です?」
「自分がだ。」
こんな自分を知ったら露伴はどう思うだろう?めんどくさいと切り捨てるのだろうか。ならば身体だけが目当てのふりをして繋がらなくてはいけないのだろうか。いつかまた置いていかれるのだろうか。
それならいっそ…というところまで来てしまっている自分の思考に、自分で笑いが込み上げてくるのだ。めんどくさいと思う。
「あなたって、おかしな人だ。」
おかしいやつだって?
ああ、その通りだよ。だから
俺のものにならないなら、俺と死んでくれ。露伴。
(2011.11.12.)
右京
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(2011.11.15)加筆修正
(2016.02.08)加筆修正
(2017.10.17)加筆修正
右京処女作(…)
最初露承にしてたけどひっかかるので承→露にしました。
本当言い訳になりますが、お話の経験値がまったくなくってですね…言わせたい言葉を並べてみただけです、はい。
おセンチな太郎。(死語?)