戻れないね、あの頃が眩しい

※side Kenya&Hikaru


「おい、なまえむっちゃ怒っとったで」
「分かっとりますよ」

渦中の人間はふてぶてしく携帯をいじりよる。やっぱし一度殴るか?コイツ。なまえの涙がこないなヤツのために流れたかと思うと腹立つ。

「なして四股なんかしたん」
「なんや……本気になれんくて。気づいたらいっつもそないになっとるんスわ」

え、なんやそれ。わけわからん。
コイツに引っかかった数々の女性たちが可哀想や。

「理由は分かっとんのやけど」
「あぁ?なんや、言うてみ」
「ホンマに好きな人おるから、きっと本気になれへんのやと思うんですわ」

ちょっと待てや。本命?なんや今日は初耳なことばっかで頭がついていかへん。浪速のスピードスターの俺の頭が追いつかんなんてこれはかなりヤバいんとちゃうか!

「俺が一番好きなん、なまえ先輩やから」
「はあああああああ!?」

なんやこの展開!少女漫画も真っ青やで!俺もう心が折れそうや。誰か助けて、そうやこれ両想いっちゅーやつなんやないの?
少女漫画も真っ青なすれ違いっちゅー話や!
「じゃあなして何も言わんの、んで他の女に手ぇ出すん」「やって、俺あの人の泣き顔好きなんやもん」


……は?


「なまえ先輩色んな人に好かれとるから、虐めたいんスわ。ぎょうさん傷つけて泣かせて心ん中ズタズタにして俺以外見えへんようになればええ」
「……よう分からんやっちゃな」

歪んどるわ、ちょっと恐なった。昔は生意気やったけどなんやかんやかわええ後輩やったんに。
なんでなまえも光もこないに荒んでしまったんやろ。年月ってやっぱし恐いわ。

「……それに、謙也さんも同罪やから」
「あぁ?」
「もうぶっちゃけますけど、なまえ先輩の処女は俺が貰ったんスわ、合意の上で」


俺がそう言うと、謙也さんは予想通りアホ面で口パクパクさせよった。まるで金魚や。ホンマ、笑えるわ。

「ひかっ……おまっ……」
「それいつやと思います?……卒業式の日や、アンタらの。部室で、俺が好きや言うてなまえ先輩が頷いて……」

そこでようやく、謙也さんの顔色が変わった。やっと気づいたんか、遅い、めっちゃ遅いわ。

「……光、ゴメンな……」
「別に、ええっスわ。アンタ鈍いし、知らんのも当たり前やし」

なまえ先輩は、俺を置いて消えたんや。
卒業したらどこ行くんか聞いたら、この辺の高校の名前が出てまだこっちにいるんやと思っとった俺がバカやった。

全部、嘘やった。

あの人は卒業式の次の日に実家に帰って行ったらしい。俺に何も言わんで、そのまま地元の高校に。

知っとったのは、3年の先輩たちだけ。


「それ以来、俺はなまえ先輩以外しか好きになってへんっスわ」
「そうやったんか……」
「でもまぁ、そろそろお仕置きも終わりにするつもりやし、安心して下さい」

そう言うと、謙也さんは苦笑いしとった。面倒なやつらで、ホンマすいません。





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