どろどろ水飴+あいすくりぃむ


「私だって、暇じゃないんだけど」

次の日、体よく退院準備を手伝わされあれよあれよと言う間に彼の実家に連れてこられてしまった。
内心このままご両親の眼前で婚姻でもさせられるのではないかと狼狽えていたのだけれど、いくらなんでもそれは考えすぎだったようで、至って普通に彼の自室に通された。

「……あ、忘れとった。これ」
「ちょっ……危ないなあ、ってこれ……」
「懐かしいやろ?」

ぽいと放り投げてよこされたそれは、あの日に彼が私の身につけていたカチューシャからむしり取ったもので

「記念とか言ってなかったっけ?」
「もうええっすわ」
「……もしかして、知ってたの」

ぼんやりとした頭では確かなことを覚えていられなかったのだけれど、ブツリと糸が切られるような音と囁かれた言葉ははっきりと残っていた。
あの時はそうは思わなかったものの、昨日の今日でこうして返されると、そう勘繰ってしまった。

「んなわけないやろ。ま、取っといて良かったーくらいは。そんだけ」
「ふーん……」
「どんだけ疑っとんねん、ちょっとこっち来い」

私が訝しげな顔で見つめると、彼は苦笑しながらこちらに手を伸ばしてきた。大人しく彼の膝の上まで誘導されたものの、なんだか
いいように流されそうな気がする。納得いかない。

「私、君より年上なんだけど」
「かわいい後輩に好き勝手させたるだけ器のデカいなまえ先輩マジ最高っすわー」
「その棒読みやめろ」

中学3年の時よりも退化したような振舞いになるのは、何故だろう。あの時は、私の方が大人だったはずなのに、こどもらしく拗ねる彼をからかって、笑っていられたのに。
これじゃあまるで、私の方がこどもだ。

「あんたの外面ぐっちゃぐちゃにしたるのが俺の昔からのちょっとした望みやから」
「……なにそれ」

彼が背中を引き寄せるから、私は彼の首に腕を回してこんな夏の盛りだというのに暑苦しくもべたべたとくっついている。

「そういえば、誕生日過ぎちゃったね」
「ちょっ……今更やな、唐突やし」
「だから、そういえばって言ったじゃん」

この一連の中で彼の誕生日というのはつい一昨日のことであって、そこまで今更だとは実は思わないのだけれど。

「……なにか欲しいものある?」
「んー……なまえで」
「君にしてはベタなこと言うね」
「キスだけでええから、欲しい」

仕方ないなぁ、なんて言いながらもそれなら何回だってしてあげると思っている自分に薄ら寒さを感じる。

今日は本当に暑い。








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