仕組まれたデジャビュか必然の偶然

「……で、話したいことってなんなの」

白に囲まれた場所、薬品の香り。
生きることにすべてのエネルギーを費やすような場所から早く出ていきたい気がしてならなかった。
ここでは、人間的な感覚が薄れていって生きてる感覚が希薄になる気がする。

「……簡単なことや。アンタ、いい加減認めた方ええんとちゃう?」
「なにを」
「俺のこと、まだ好きなんやろ」

視界がぐるり、と回るあまり気分がよろしくない感覚と、背中に当たる安っぽいパイプベッドの固い感触に顔をしかめて彼を見上げると、あの日と変わらない視線とぶつかる。

「ねぇ、なんのつもり」
「……分かっとるクセに」

そう、今から起こるだろうことを尋ねるのは下世話というもの。けれども、大人しくしているわけにもいかないので申し訳程度の抵抗を試みても全くと言って良いほど無駄に終わる。
それが本気のものだと言ったら嘘になる。でも、このまま流されるままにこの先を受け入れてしまったらあの日の二の舞で、結局お互いに虚しいだけなのだ。

「……っ、とに……最低……」
「お互い様やろ、何でもないフリのアンタとしつこく動く俺と、全部分かっとる上で真逆のこと互いに続けとるだけや」
「じゃあ、いい加減諦めなよ」
「……お断りやな」

そう、彼に諦める気は微塵もない。私の手首を押さえつける力の強さからもはっきりと伝わってくる。それに対して、やる気があるのかないのか分からない中途半端な抵抗から私が折れる方が容易く、早いことは明白なのだけれど臆病な私は踏み止まることしか頭に無いのだ。

「……光くん、」
「これが最後のチャンスやなまえ、俺と金輪際関わらんか、大人しく俺のもんになるか……今日こそ決めてもらうで」

自然消滅なんて安易で卑怯な終幕を選ぼうとしていた臆病者の末路には、一体どちらが正しいのだろうか。
私には分かるはずもない。

さりげなく、変わっていた呼び方はあの日を思い出させるには十分すぎる。

それをもう一度再現するつもりなのか、生気の無い場所で生を痛いくらいに生々しく感じさせるあの日の幻想がフラッシュバックする。
変わってしまったのは見せかけだけで、それで成長したつもりでいたのに相変わらず子供のままでしかなかったのだ。



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