偽りと再生と歪んだままの歯車
何年振りかに聞く着信音に背筋が凍りついた。あれから1週間、ガタガタだった私の精神がまた普段通りに機能するのを阻害するには十分過ぎる要因。
「……はい」
『なまえ先輩?俺やけど、光』
「うん。何、電話してくるなんて」
『暇やったん。病院ってつまらんわ』
「ちょっ……何してんのアンタは!」
唖然として、携帯を取り落としかける。そりゃそうだろう、常識の範囲外。いくらなんでもこれはマズイんじゃあなかろうか。
『いや、ちゃんと用事はあるんやけど』
「公衆電話を使え、全く」
『あないに人多いところで話せないっスわ』
私は盛大に溜め息を吐いた。
「用って何?だったら早く話して、早く切りなさい」
『えー、冷たいわぁ……まぁ、しゃーないっスわ。先輩、明日空いとる?』
「まぁ、一応は」
カレンダーにはぎっしり予定が詰まっていた、1週間前までは。その代わりと言ってはなんだが、これからしばらくはフリーの日が続いていて、せめてあと1週間予定がずれていてくれれば良かったのに、と思ってならない。
『せやったら、会いに来て。電話やと長くなってまうし、ちゃんと顔見て話したいこと、あんねん』
「は……?」
『すっぽかしたら、こん前の人連れ込んでヤっとるとこ電話で中継でもやったるわ。そんだけ。それじゃ』
「えっ、あっちょっと!」
すでに切られた真っ暗になった電話の画面に何と言ったところで何も返ってきはしない。かといって、私からかけ直すのは憚られるし、きっと出てはくれないだろう。
「……本気なの」
そう言いながらも、パソコンを開いて明日の大阪行きの新幹線のチケットを取っている私は、本当にバカだ。
最後の脅し文句がリフレインする。もし、あれが本当だったとして、電話に出なければ良い話だろうけど、その電話の向こうのことを考えて、正気でいられるかと思うと
「……ノー、かな……」
けど、もう一つ最悪の可能性として私が入っていったとき、そういう状況であるということも考えられる。そうだったとして、私は……
「被害妄想だけは、一人前なんだから……ね。困ったヤツ。」
私は、彼に弄ばれているだけなのかもしれない。
そして、彼は私を追い詰めるためには手段を選ばない。
「まぁ、私の自業自得……なんだよね」
でも、
「キッツイなー……」
私に泣く資格なんてないのに。
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