臆病者は最悪のエンドを望む
「なんや、浮かない顔しとるなぁ」
「そう、かな……」
あのあと、仕事を終えて中学の頃の友人たちが何人か集まった食事の席。そして、さっきのことをまだ引きずってる私。
「ちゅーか、謙也もなんや大人しいなぁ」
「うぇ!?そんなことあらへんわ!」
そう言って、目の前にあったお皿に箸をつけてガツガツかっ込み始めた謙也くんに、蔵くんは微妙な表情を浮かべる。
「なんや、二人なんか合ったん?」
小春ちゃんが大皿の料理を取り分けながら訊いてくるけれど、答えられるはずもなく小さく首を横に振った。
「……別に、なんにもないよ。ちょっと疲れてるだけ」
「そうなん?まぁ、なまえちゃん忙しそうやもんねぇ……」
多分、納得していないのだろう。ユウジくんと金ちゃんはともかくとして、蔵くんと小春ちゃんがこの程度で騙されてくれるはずがないのだから。
「ちゅーか、ワイ寂しかったんやで!」
その時、不満げにオレンジジュースを啜りながら、小皿に取られずに大皿に残された料理を平らげていた金ちゃんが唐突に私に抱きついて言った。
「なんでなまえなんも言わんといなくなってまったん?夏休みに遊びに来たときも言ってくれんかったし……」
それは、今の私の心の内を抉るにはちょうど良かった。
「ごめんね、金ちゃん」
「ちゅーか、それ5年も前の話やん。何を今更蒸し返しとんねん」
「せやかてワイ寂しかったんやもーん!」
ユウジくんと金ちゃんのやり取りが、すぐ横の出来事のハズなのにやけに遠く聞こえる。
あの日は、幸せだったな。
私は弱虫だから、なんにも言わないで消えようと思っていたのに、思いがけず彼に呼び出されて、それから……
実は両想いだったなんて、三流ドラマみたいな話と性急に及んだコトに私の単純な脳髄は蕩けきっていて
明日には新幹線で片道三時間以上もするところに行くなんて、どうしても言えなくて
結局、もっとも残酷なことをしてしまったのだ、私は。
私だけが幸せで、彼を傷つけた。
あの数時間足らずで幸せを使いきってしまったのかもしれないし、そんな私への罰なのかもしれないけれど。
自己満足かもしれないけれど私は、あの日、あの時彼に愛されただけであとはずっと不幸でも良いとさえ思えたんだ。
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