少しして、夏目と城山が大量の菓子とジュースを持って帰って来た。ジュースはともかく、そんなに菓子を買ってきてどうするんだ。飯も普通に食ったってのに。俺の呆れた視線に気付いたのか、夏目が笑顔で菓子を広げた。

「いやー、いろいろあって迷っちゃってさ」
「俺は止めたんだが・・・」
「おい、ヨーグルッチはどうした」
「あ、どうぞ。神崎さん」
「おー」
「さて、どのお菓子食べる?」
「・・・俺は食わねーぞ。コーラだけよこせ」

スナック菓子なんか食えるか、と言うと夏目がえーと抗議してくる。

「せっかく買ったのに」
「知るか。勝手に買ったんだろーが」
「俺はそれが食いたい」
「どうぞ、神崎さん」
「ほらー、姫ちゃんも。たまには駄菓子とかスナック菓子も美味しいよ?」
「腹減ってねーし、胸焼けするわ」
「俺も今食ってんのだけでいい」

神崎は、一つの菓子を抱えて食っている。夏目は諦めたようにため息をついた。

「もー、美味しいのに」
「ジュースは貰うから安心しろ」
「ヨーグルッチは俺が飲むから安心しろ」
「お菓子も食べようよ!二人共!」
「・・・夏目、持ち帰ればいいじゃないか」

城山がポンと、夏目の肩を叩く。少し不満そうな夏目だったが、少しして良いことを思いついたという表情になった。

「あ!じゃあ、余ったら城ちゃんにあげるよ。弟君達に持ってってあげてね!」
「あ、あぁ・・・」
「あー、無駄にならなくて良かったぁ」
「・・・そうだなー」

楽しそうな夏目に、神崎は棒読みで同意した。全然心がこもってない。それでもいいのか、夏目はでしょーとかいいながら神崎に絡んでいる。

「神崎くーん!このお菓子新発売なんだって!」
「あー?」
「姫ちゃん、コーラ飲んでるんだったらオレンジジュースとかも混ぜちゃわない?いっぱいあるし」
「ざけんな!死ね!」
「夏目、行儀が悪いぞ」
「城ちゃん、お母さんみたい・・・」











何故か異様に夏目がハイテンションなまま、ジュースが尽きるまで四人で騒いだ。高級ホテルまで来て何してんだって話だが、この面子じゃしょうがねーか。
散々騒いで満足したのか、夏目は寝ると言って部屋に帰って行った。最後の方、城山がくだびれていたが、俺のせいではない。残った俺と神崎は、歯を磨いてベッドに腰掛けた。

「ベッド、どっちがどっちでもいいよな?」

一応訊くと、神崎は首を傾げる。

「あ?何か違うのかよ」
「いや、どっちも変わらねーけど」
「じゃ、どっちでもいいだろ」

そうだけどさ。たまにガキくせーこと言う神崎だから、ごねるかと思ったんだがそうでもなかったか。でもそう言うと絶対怒鳴るなと思ったので、適当な言い訳を考える。

「ほら、たまに窓際がいいとか、入口が近いと嫌だって言う奴いるだろ」
「あ〜・・・い、るのか?ふうん」
「いるんだよ。たまにな」
「そうか。ま、俺はどっちでもいいし」
「分かった」

頷いて、窓際のベッドに潜る。時間はいつもの就寝時間をとうに過ぎていたしいい具合に眠たいので、すぐに睡魔がやてきた。神崎の方を見ると、あっちも眠たいのかもう目を瞑っている。

そこでふと、思った。
そう言えば、こうやてって同じ部屋で寝るのって初めてだな。いつもは、神崎を寝かしたら隣の部屋の寝室まで行ってたし。二人して泥酔した時は、ソファだの床だので潰れてたもんなぁ。


「・・・ま、だからどうってことねーけど」


取り繕うようにそう呟いた。神崎は寝てるみたいだし、誰に言うわけでもないんだが。何となく、神崎を意識しているような雰囲気が嫌だった。
明日はチェックアウトに間に合うよう起きなきゃいけないんだし、いい加減寝ようと俺も目を瞑った。

















朝、携帯のアラーム音で目が覚めた。手さぐりで携帯を探しながら目を開ける。昨日は寝るのが遅かったし、欠伸が出るのは仕方がないだろう。

「あ゛ー・・・、あった」

やっと携帯を見付け、アラームを止める。寝不足の時のアラームほどイラつくもんはねーよな。伸びをして、隣を見るとでかいアラーム音が鳴っていたというのに神崎は爆睡していた。いつもどうやって起きてんだ、こいつ。
呆れつつ、欠伸をしながら神崎を起こしてやる。

「おい、神崎ー。起きろー」
「んー」
「さっさと仕度しねーと、チェックアウトに間に合わねーぞ」
「あ〜・・・、おう」
「ったく、起きろって!終いには置いてくぞ!!」

何とか神崎を起こし、俺は顔を洗う。起こしてやった時に舌打ちをされ、朝から殴り合いのケンカになりそうになったりしたが時間がないので止めた。
着替えていると、神崎は鞄の中の荷物を確認し始めた。忘れ物とかすると面倒だからな。俺は昨日のうちに終わらせておいたけど。

「終わったかー?」
「あ?・・・おう、多分」
「・・・忘れ物すんなよ」
「するか!ガキみてーに言うな!!」
「へいへい」
「てめえ・・・っ」

神崎が何かを言いかけた時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。威嚇体勢の神崎を無視して、ドアに近付く。

「神崎くーん、姫ちゃーん」
「あぁ、夏目か」

ドアを開けると、荷物を持った夏目と城山が立っていた。

「おはよう」
「おー」
「神崎くんも、準備できてるー?」

言いながら二人共部屋に入ってくる。

「おはようございます、神崎さん!」
「おー」
「あ、神崎くんも準備できてるね」
「当たり前だろ」

そう鼻息荒く言う神崎に呆れる。
てめえ、神崎。誰がてめえをたたき起こしてやったと思ってんだ。あのまま放置してたら、今でも絶対寝てただろ!
そう叫びたいのを我慢して、俺も荷物を持った。

「おら、準備できてんなら行くぞ」
「はいはい」

さっきの仕返しか、神崎が投げやりな返事を返してくる。イラッとしつつ、部屋を出た。
ホテル前には迎えの執事がいて車に乗り込む。いろいろあったが、まぁ終わりよければ全てよし、だろう。

「あ、帰りも送ってくれるんだ」
「悪いな」
「・・・さんきゅー」
「ま、ここにきてバスで帰るのも面倒だからな」




車に乗ると神崎はまだ寝たりなかったのか爆睡し、夏目と城山は景色を見て何やら話していた。
一人ひとり家に送るのはさすがに面倒だったので、適当な場所で降ろしてやる。明日は学校だし、こいつらもそのまま家に帰るらしかった。城山が持っている菓子がなんだかシュールだ。

一人マンションに帰って、取り敢えずテレビを付けてソファに座る。半ばいきおいで付いて行ったプチ旅行だったが、神崎を和解できたという点では行くだけの価値があったということだろうか。
そもそも、ケンカしていたわけじゃないから、和解ではねーのかもしんねぇけど。

「本当は、まだまだ訊きてぇことあったんだがな」


ま、それは再来週、神崎はいい感じに酔った時にでも訊いてみるか。












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