プチ旅行の後、学校ではそれほど神崎との接触もなく過ごした。もともと学校では喋ることもなかったし、避けられてる様子でもなかったし俺も気にしなかった。
特に揉め事もなく、だらだらと授業(ほぼ自習だが)を受け、あっという間に約束の日の前日になった。その間、もしかしたらやっぱりなかったことにしてくれと言われるのではと考えたこともあったが、杞憂だったらしい。















「よぅ」
「おー」

インターホンが鳴ったのでドアを開けると、神崎が立っていた。俺のマンションを訪ねてくるなんて、約束抜きにしてもこいつくらいだから驚くことはないんだが・・・。それでも、本当に来たんだと内心思った。

「今日は手土産なしかよ」
「・・・あー、忘れてた」
「まぁ、別にいいけどさ」

俺の心情を悟られない様に、指摘してやると神崎は本当に忘れてたのか少しだけ焦ったように目を泳がした。手土産が欲しかったわけじゃないから、思わず苦笑して神崎を部屋に入れる。
久しぶりだからか、部屋でくつろぐ神崎がどこかぎこちなく見えた。

「何か飲みたい酒とかあるか?」
「んー、でも俺酒の種類とか知らねーし」
「あぁ、そうか。じゃ、適当に持ってくるか」
「あ、つまみ持ってきたから・・・皿借りるぞ」
「おう」

好きにしてていいぞ、そう言って俺は酒を取りに行った。
神崎はあんま酒強い方じゃねーのに飲みたがるからなぁ。弱いやつをチビチビ飲ませて話を訊き出すがいいか。・・・出来上がった後だと駄々こねだして話どころじゃねぇだろうしな。
そう思い、俺は適当な果実酒を手に取った。









「お待たせ」
「言う程待ってねーよ」
「そう?神崎くんやっさしーじゃん」
「はぁ?何言ってんだてめえ」

飲み会って場だと、これくらいの軽口は神崎の機嫌を損ねることはない。むしろ、機嫌のいい時は乗ってくれることもある。今も俺を睨んではくるものの不機嫌さはない。

「あ、ワインだったのか。・・・ワイングラスの方がよかったな」

俺の持ってる果実酒を見て、神崎は立ち上がろうとする。机に置いてあるのはコップだった。ワイングラスの場所を変えたから分からなかったんだろう。

「見当たらなくってよ」
「あぁ、ワイングラスの置き場変えたんだよ」
「そうなのか」
「別に店で飲むわけでもねーし、コップでいいだろ」
「でも・・・」
「俺は気にしねーぞ?」
「姫川がいいなら・・・いいんだけど」
「おう」

多分神崎もワインをコップで飲もうがグラスで飲もうがどうでもいいと思ってるんだろう。ただ俺に気を遣ってるだけだ。いつもは暴君みたいな奴なのに、飲み会の時はしおらしいというか、気にしいというか・・・。
コップありがとなと言えば、神崎は少し眉を顰めながらも照れたように返事を返した。


「じゃ、乾杯」
「・・・乾杯」

ワイングラスの代わりにコップにワインを注ぎ乾杯をする。俺もそんな酒を飲むわけじゃないから、久しぶりの飲酒だ。だからと言ってこれくらいの酒で酔うわけじゃないが。神崎はどうだろうと横を見ると、ごくごくとジュースの様に飲んでいた。
おいおい・・・、悪酔いしても知らねーぞ。

「この酒美味いな」
「ふうん、気に入ったか?」
「おう。こんくらい甘いのが丁度いい」
「へぇ」

前々から思ってたが、神崎って子供舌だよな。ヨーグルッチが好物だし。
相当今回のワインが気に入ったのか、神崎は早速コップに二杯目を注いだ。それはもう、なみなみと。

「・・・神崎、飛ばし過ぎじゃね?」
「あー?大丈夫だって」
「そうかぁ?」
「そうだよ」

そう言って、神崎はワインを飲み始めた。いくらアルコール度数が低いからって、そんな一気に飲んだらなぁ。つまみも食ってないし。・・・てか、こいつ飯食ってきたのか?
空きっ腹にいきなり大量のアルコールぶち込むとか、絶対悪酔いするだろ。別に神崎が二日酔いになろうといいんだが(吐かれるのは困るけど)、話が訊き出せなくなるくらいにべろんべろんになられたら困る。

「神崎、つまみ何持ってきたんだ?」

せめてつまみを食わそうと、神崎に訊ねる。

「あーと、ポッキーとか・・・家にあったせんべいとか」
「ふうん」
「家に置いてあったのを持ってきただけだけどなー」
「なら、ポッキーでも貰うかな。・・・神崎はどれ食う?」
「あ?あー・・・じゃ、俺もポッキー」
「はいよ」

ポッキーの箱を開け、一袋分を神崎に渡す。それを受け取ると、神崎は美味そうにポッキーを食べ始めた。俺もポッキーをつまみながらワインを飲む。甘いワインに甘いつまみだが、神崎は気にならないらしい。まぁ、俺も持ってきてもらった側で我が儘言わねーけどよ。それでも、チーズとか食いてぇなと内心思うくらい許して欲しい。


















暫くくだらない話をして飲み続け、ワイン二本目を飲み終わった頃には、神崎はいい具合に酔っていた。ふわふわとしているのか、少し体は不安定で顔も赤くなっている。こんくらいに酔ったら神崎はたいてい何でも話してくれる。しかも、翌日には覚えてないことが多い。

「ひーめーかーわー」
「んー?」
「ワイン、なくなっちゃった」
「あー、まだ飲むのか?」
「ん、欲しい」
「でも、お前けっこう酔ってるだろ」

そう苦笑すると、神崎は拗ねたのか唇を尖らせてもたれ掛って来た。

「酔ってねーもん」
「もん・・・」

酔ってるな。甘えてくるのがいい証拠だ。
酒酒言っていた神崎だが、もたれていたら少し落ち着いてきたのか眠くなってきたのか、ずるずるとずり落ち俺の太ももに頭を乗せてきた。相変わらずだな、と苦笑しつつ落とすことはせず声をかける。

「おい、神崎?」
「んー」
「寝るのか?」
「寝ない!」
「ふうん・・・?じゃ、ちょっと話しようか」

そう言いながら頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。猫みたいだな、とふと思う。

「話ぃ?」
「そう。俺が訊くことに答えたら、酒持ってきてやるよ」
「! 分かったっ」

酒という言葉が効いたのか、神崎は寝転んだまま俺を見上げると力強く頷いた。ガキみてーだよなぁ、神崎って。もう一度頭を撫でてやると、嬉しいのか機嫌がいいのか手に擦り寄って来た。
神崎と酒を飲むようになる前の俺が今の状態を見たら、気持ち悪いと自身共々罵倒するだろうな。実際、慣れるまで時間がかかったのは事実だし。夏目と城山も、まさか俺達がこんなゆっくり酒を飲んだりしているとは思わないろうなぁ。想像もつかねーだろう。そもそも、あの間違い電話がなけりゃこうやって神崎と二人で飲むこともなかったんだよな。そう思うと、今が何だか不思議に思う。

「・・・ひめかわ?」
「あ?・・・あぁ、悪い」

ボーっとしている俺を不思議に思ったのか、神崎は首を傾げつつ俺を見上げた。俺は一言謝って、じゃあと口を開いた。




「あのな、俺・・・神崎に訊きたかったことがあるんだ」












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