神崎は今、猛烈に後悔していた。




「・・・・・・もう二度と学校で・・・一人では寝ねぇ」


そう呟く神崎に首を傾げる男が三人。東条、相沢、陣野だ。東条と相沢はたこ焼きの屋台の準備をしており、陣野は神崎の横で参考書を開いている。
陣野が参考書を閉じて神崎に問う。

「どうした、神崎」
「・・・っ、どうしたじゃねーよ!この人攫いどもがぁぁあああ!!!」

怒鳴る神崎に笑う東条。それに神崎は恨めしそうにギリギリと歯ぎしりをした。
















放課後、用事があると先に帰ってしまった城山と夏目に手を振って、神崎は一人教室でボーっとしていた。二人が居ればゲーセンにも寄ろうかと帰る気力も湧くが、一人では帰るのもかったるく思えたからだ。家に帰れば二葉の相手で体力も使うし、とため息をつく。

「・・・・・・ふ、ぁあ〜」

不意に出た欠伸に、神崎は少し寝てから帰ろうと机に伏せる。だが、それがいけなかった。
神崎が寝てからしばらくして、東条達が教室に戻ってきた。今日は東条がバイトで、相沢と陣野もそれに付き合おうと三人で帰ろうとしたのだが、教室で寝ている神崎を見て三人は顔を見合わせ・・・、そして笑った。
傍から見ていた不良達曰く、それはそれは恐い光景だったそうな。


神崎は目を覚ますと思わず何度か瞬きをし、キョロキョロと辺りを見渡した。何故、教室で寝ていた自分が河原にいるのか。何故、東条達が側にいるのか。

(何だこの状況!?つーか、俺教室で寝てたよな・・・!?何で河原に・・・っ)

焦る神崎に気付いて、相沢が呑気に声をかけ近付いてくる。

「あ、何だ。神崎やっと起きたのかよ」
「・・・相沢っ!」

ヘラヘラ笑いながら近付いてきた相沢の胸倉を掴み神崎は凄む。

「てめぇ・・・っ、何で俺が河原に、ってか何でてめえらがいるんだよ!!」
「まぁまぁ」
「あ゛ぁ!?」

相沢は途端、笑みを止めると神崎の顎に手を添える。

「・・・?」
「んなに顔近付けると、キスしちまうぞ」
「・・・・・・・・・!?」

神崎はその言葉に顔面蒼白になりバッと後ろに下がる。

「えー・・・、そこまで拒否らなくても」
「洒落になんねーんだよ!」
「ひでぇなー・・・」

そんなやり取りをしていると、東条と陣野も近付いてきた。東条にいたっては抱きついてきて、暑苦しいと神崎は全力で抵抗する。

「お、目ぇ覚めたか!神崎っ」
「ぎゃあああ!抱きつくな!きもいっっ」
「お前はなかなか起きないんだな。移動中けっこう揺れたと思うのだが」
「知るか!つーか何なんだこの状況はあああ!!」

怒鳴り散らす神崎に、東条は笑いながら豪快に頭を撫でる。

「落ち着け、今説明してやる」
「その前にこの筋肉野郎をどけろ!」
「あー、ほら、東条さん」
「む。・・・・・・分かった」

しぶしぶといった感じだが、やっと離れた東条に神崎も息をついた。それを見て、陣野は説明を始める。

「まぁ、もう分かっているとは思うが、お前が学校で寝ている間に俺達で連れて来た」
「やっぱりな!死ね!!」
「そう怒るな」
「普通怒るわ!・・・・・・んで、何で河原に?」
「今日、東条さんここでバイトなんだよ」
「それが!?」
「俺達も今日は付き合おうと思ってたら、教室でてめえ寝てるじゃん?これはもう、連れてくしかねーな、って」
「意味分からん!!」
「だっていつも壁になってる夏目と城山はいねーしさぁ」

そう言って相沢はヘラヘラと笑う。東条は少し済まなそうにしながら顔の前に手を合わせた。

「俺達も、もっと神崎と居たいんだよ〜」
「・・・・・・なっ」

思わず、神崎は頬を赤くする。東条のこういったストレートすぎる言葉が神崎は苦手だった。流されてたまるか、と軽く唇を噛む。

「別にバイト手伝ってもらおうってわけじゃねーんだからさ」
「俺のバイト終わるまで一緒に居て欲しいんだよ」
「な、んで俺が・・・!」
「面白いからだ」
「死ね陣野!!」

それから散々怒鳴ったが帰してもらえず、神崎は不貞腐れ参考書を読む陣野の隣に座った。
そして、冒頭に戻る。









「人攫いとは、人聞きの悪い」
「本当のことだろうが、ガリ勉野郎が」
「まったく、口数の減らない奴だな」
「ちっ、・・・・・・てか、てめえは手伝わねえのかよ」
「手伝うのは庄次だけだ」
「ふうん」

そう言って陣野はまた参考書に目を通し始めたので、神崎は東条と相沢の方を見る。チラホラと客が来ていた。子供が多いなぁ。

「にーちゃん!たこ焼き一個!」
「おう!待ってなボーズ」

東条はそう言ってたこ焼きをひっくり返していく。それを見ながら神崎は小さく腹を鳴らした。それに陣野と相沢が気付いた。

「神崎・・・」
「何だ、神崎腹減ってんのか」
「べ、別に・・・っ」

わたわたと慌てだした神崎に東条も気付いて声をかける。たこ焼きを買いに来た子供も、神崎の方を振り返った。

「ん、どうしたー?」
「ああ、神崎が腹減ったんですってーっ」
「わざわざ叫ぶな!!」
「そこまで照れなくてもいいだろう。腹は誰だって減るものだ」

そう言って陣野は軽く神崎の頭を撫でる。その手を頭を左右に振って振り払い、神崎は項垂れた。

(何で学校で寝たんだ!家に帰ってればよかったあああ!俺の馬鹿野郎!!!)


その様子をどう取ったのか、東条は子供にひそひそと話しかける。

「なあ、坊主」
「なぁに?」
「たこ焼き少しおまけしてやっから、あの金髪の兄ちゃんにこれ持って行ってやってくれ」
「? うん、いいよ!」

頷く子供の頭を笑いながら撫でて、東条はたこ焼きの入ったパックを二つ手渡した。




「金髪のにーちゃん」

子供に声をかけられ、何事かと神崎は顔をあげる。視界に入った子供は神崎に向かってたこ焼きを差し出していて、何なんだと首を傾げた。

「これ、あのにーちゃんが渡してくれって」
「へ?・・・・・・あ、あー・・・さんきゅ」

お礼を言うと子供は嬉しそうに笑う。案外、無自覚に子供が好きな神崎は少し頬を緩ませた。ありがたくたこ焼きをいただこうとすると、相沢が横からちょっかいを出してくる。

「俺が食べさしてあげよっか?」
「は、あ?」
「ついでに熱いから冷ましてやるよ」
「きもい!死ね!」
「庄次、あまりからかうと嫌われるぞ」
「もう嫌ってるから安心しろ。あと、てめえも撫でてくんな陣野!きもいんだよ!」

相沢を咎めるようなことを言いつつも、腰を意味有り気に撫でてくる陣野をキッと睨む。撫でてくる手をパシリとはらってやると涼しい顔をされた。

(ガキの前だぞ・・・!?正気かこいつら!)


有り得ないと頭を抱えていると、客が居なくなったのか東条が駆け寄って来た。しかもあろうことか抱きついてきて、思わずたこ焼きを落としそうになる。

「美味いかー?神崎っ」
「な、ば・・・っ!離れろ!!!」

そう言ってたこ焼きを押し付けるようにしてやると、たこ焼き食えないよな、と勘違いをして謝ってくる。これで東条が離れなかったら、神崎はまた怒鳴っていたことだろう。
食べよう、と改めて神崎がたこ焼きのパックを取り出した時、一部始終を見ていた子供が首を傾げながら訊いてきた。

「にいちゃん達って、友達?」

そう訊ねる子供に東条は笑いながら答えた。

「そうだぞー」
「・・・金髪のにーちゃんも?」
「ん?神崎は俺達の未来の嫁だな!」
「ぶっ・・・!?」

東条の言葉に神崎は思わずたこ焼きを吹き出しそうになり咽た。












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