その背中をさすってやりながら、相沢も呆れたように笑う。

「駄目ですよ、東条さん。あんま変なこと言っちゃあ」
「む?」
「そうだぞ、虎。それに俺達の、だと一妻多夫制だ」

日本では無理だな、と言う陣野の胸倉を神崎は勢いよく掴んだ。

「そう言うこと言ってんじゃねぇぇええええ!!」
「どうどう、神崎」
「・・・よめ?」

小首を傾げる子供に、神崎は向き合うと東条を指さしながら真剣な面持ちで言った。

「いいか、小僧。こいつは脳みそまで筋肉なバカだから、言ったことあんま真に受けんなよ」
「そうなの?」
「おう」

無邪気な子供は本当に分かったのかどうかは定かではないが、分かったと元気よく頷いて帰って行った。神崎ははぁ、と大きなため息をつく。


「何だよ、嫌なのか神崎」
「嫌ですけど!?・・・つーか、ガキの前でふざけんなよ!教育に悪いだろーがっ」
「そうなのか!?」

驚きつつも子供好きな東条はすまんと謝る。それにふんと鼻を鳴らして、神崎はたこ焼きを頬張った。

「美味いかー?」

すると再度東条が訊いてくる。

「・・・・・・まぁまぁ」

本当は美味いな、と思ったのだがムカつくし恥ずかしいので言ってやらない。それでも東条は嬉しそうに頭を撫でて来るので神崎は恥ずかしくなり少し眉をひそめた。


「あ、東条さん。客来てますよ」
「おう」
「材料足りなくなったら呼んで下さいね」
「悪いな、庄次」

そう言って屋台の方へ走って行く東条に相沢はいえいえと笑いながら手を振る。どうやら忙しくなって材料が足りなくなったら相沢が用意することになっているようだ。

「てめーら、いつもこうやって手伝ってんのか?」

神崎が問うと相沢がいや、と首を振る。

「んなこともねーよ。手伝ってることの方が少ないと思うな。かおるはたいてい図書館に居るしな?」
「ああ」
「ふうん。受験勉強か」
「そうだ」

そう言って、陣野はまた参考書を開いた。

「神崎は受験勉強しねーの?」

そうニヤニヤと訊いてくる相沢を神崎は軽く睨む。

「そう言うてめえはどうなんだよ」
「・・・・・・ま、うん。そこそこってことで」
「・・・ま、俺は卒業できりゃいいしな」
「家継ぐから?」
「おう」
「へー。それはそれで大変そうだねぇ」

そう言いながらたこ焼きを一つ摘む。

「あ゛っ、俺のたこ焼き!!」
「いーじゃん。東条さんの奢りなんだし」
「・・・・・・・・・・・・」
「んな睨むなって・・・」
「けっ」

最後の一個を口に入れて、神崎は空になったパックを捨てようと周りを見渡す。しかしゴミ箱が見当たらない。

「どした?」
「ごみ箱ねーのか」
「あー、・・・アレだ、材料とか入れてきた袋あっから空いたら捨てればいいだろ」
「そうだな」

そう言って相沢にパックを押し付ける。

「え」
「やる」
「え〜・・・」
「喜べ、変態丸メガネ」
「酷い言われ様!」

横でギャーギャー騒ぐ二人を気にもしないで陣野は参考書のページを進めて行く。東条も慣れたものなのか客の相手をしながらたこ焼きを順調に売って行った。
その様子を神崎はただボーっと見ている。無理やり連れてこられたわりには、三人共無理に絡んでこず(東条はバイトだし陣野は勉強だし)、何だこれと神崎は頭の片隅で思った。意外に暇で小腹も膨れたことにより睡魔が襲ってくる。

(ぜっってぇ寝ねーぞ。そもそも睡魔に負けて今こんな目に合ってんだからな・・・!)

そう思うものの落ちそうになる瞼に頭を振る。

「・・・神崎」
「あ?」

不意に陣野に声をかけられ目を向けると、飴を差し出していて神崎は首を傾げた。

「やろう」
「何で」
「ハッカ飴だ。眠気も冷めるぞ」
「べ、別に眠くなんか・・・」
「さすがに外で寝ると風邪を引く」

もう秋だと言って飴を持つ手を引っ込める気配がない陣野に、神崎はしぶしぶと飴を受け取った。

「・・・分かったよ」
「・・・・・・」

受け取ると無言でまた参考書を読み始める陣野に、変な奴と思いながらも飴を舐めた。スースーとする感覚が口内に広がり少しだが眠気も覚めてくる。ころころと飴を転がす神崎を陣野は気付かれないよう、小さく笑った。














17時を少し過ぎた頃、東条が相沢を手招きして何やら片づけをし始めたので、やっとかと神崎も立ち上がって背伸びをした。
東条のバイトを見ている間、相沢や陣野と少し話をしていたと言っても暇であったことには変わりなく、疲れたなと首をコキコキと鳴らした。

「神崎ー!」
「へ?・・・・・・う、わぁああ!」

片づけが終わった途端抱きついて来る東条に悲鳴を上げつつ、肘で突くも意味がない。

「離れろ変態がー!」
「だって全然構えなかったしよー」
「知るか!」
「東条さーん、荷物ちょっとは持って下さいよー」
「あ、すまん!」

相沢に呼ばれ東条は神崎から離れる。ホッと息をつくもそれも束の間、手が引っ張られる感覚がしたので目線をやれば東条の大きな手が神崎の手首を掴んでいた。

(・・・何じゃこりゃ)

「東条!」
「んー?」
「手離せ。うざったい」
「つれないなぁ、神崎は」
「あぁ!?」
「ま、そんな所も猫みたいでかわいいんだけどなっ」
「ひぎゃ!?」

そう言って頬ずりしてきた東条に鳥肌を立てながら後退するも、手を掴まれているのでそれ程逃げれず神崎は歯ぎしりする。

「離せ!」
「ちぇっ」
「東条さんー」
「あ、庄次悪ぃな」

再度呼ばれ慌てて走る東条に、神崎は今度こそ息をついた。ふと陣野に視線をやると携帯をこちらに構えており神崎は顔をしかめる。

「・・・何してんだ」
「写メを撮っていた」
「〜〜っ、消せ!」
「断る」
「消せって!!」
「良く撮れてるぞ?涙目のお前が」

そういって薄ら笑いをする陣野に悪趣味だと神崎は青ざめた。陣野はよくこうやって涙目になったり少し痛がっている神崎を写メに撮る。その度に神崎は悪寒を感じるのだが、この男が止める様子はない。

「送ってやろうか」
「いらんわ!」

携帯をしまう陣野にげっそりとする。

(こいつが一番苦手かも・・・)

そう思いつつも、そんなことを口にすればどんな嫌がらせをされるか分かったものじゃないので言わない。

(べ、別に・・・ビビってるわけじゃんーからな!)

「何を睨んでいる?」
「睨んでねーよ!」
「・・・・・・そうか」







「今日は楽しかったなー」
「そうッスねぇ」
「いい息抜きにはなったな」

とご機嫌な東条達とは逆に神崎は疲れたような表情で三人を睨んだ。この三人に捕まると99%の確率で神崎は疲労するのだった。

「やっぱアレだな」
「・・・どれだよ」
「放課後デートっていいな」
「はあ!?」

東条の言葉に神崎は大きな声を上げる。

「で、でででデート、だぁ!?」
「おう」

何を今更と言いたげな東条に神崎は青筋を浮き出させる。

「意味分からんこと言うな!!」
「言ってなかったか?」
「言ってねえ!」
「でも俺達はそのつもりでしたよねー」
「おう」
「と言うか、事前に言っていたらもっと抵抗していただろう。お前は」

呑気な三人に神崎は唖然とする。

「ありえん。デートとか・・・ありえん!」

(・・・つーか、これだと放課後デートってよりバイトデートって感じだろ)



今日最大のため息をつきながらがっくり肩を落とす神崎に東条はキョトンとした顔をし、他二人は笑う。

それを見て、帰り一人になったら即行帰ろうと神崎は強く決心したのだった。

















神崎くん、叫び過ぎて高血圧になりそうだ(笑)
東条一派とのからみ書くの楽しいですが、相沢のキャラが難しい。もっとチャライ方が良かったのかな?
いじられ神崎くんでした!


EMI様へ





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