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走り回る少年達から垂れた汗がヨットハーバーグラウンドにじゅわ、と染み込んだ。強すぎる日差しから熱を十分に吸い込んだ地面はまるで自然の鉄板のようで、水で色の変わった土は大して時間もかけずに元の色に戻る。

地球を賭けたあの戦いが終わり、無事元の学校へと戻ったアースイレブンの面々たちはあまりの現実味のなさにあの日々はあるいは幻であったのだろうかと懸念したが、イナリンクの文字や練習で身についたサッカーの技術は嘘ではなかったことを物語っていて、呆気なさすぎる非日常の終わりにやや拍子抜けした。ただし、天馬の提案でよければこれからも予定が合う日があれば会ってサッカーしないか、と提案がなされそれはあの日々の中で天馬やほかの雷門の2人に助けられたアースイレブンのメンバーは快く受け入れた。もちろん学校も学年も部活も違うメンバーの予定が合うことは多くなかったがそれでも数ヶ月に一回は顔を合わせるようにしていた。

この日もその合同練習の予定だったのだが、一ついつもとは違うところがあった。

「うわあっ!い、いてて…」
「あ…!すまない、天馬…立てるか?」

スライディングが思いがけず悪いところに当たり、痛そうに倒れた天馬に白竜が心配そうに手を差し出した。違いというのはこのことであり、アースイレブンに混ざってレジスタンスジャパンも練習に混じっていた。
この日はレジスタンスジャパンも練習を行う日だったらしく、白竜と連絡をとっていた剣城が偶然そのことを知り一緒に練習してはどうか、と持ちかけたのだ。
天馬も少し擦りむいた足を抑えながら「ううん、大丈夫。ありがとう」と手を借りて立ち上がった。
そのまま続けようとボールを瞬木にパスしたが、ボールを蹴った瞬間にずきん、と打たれた足が痛むのを感じた。思わず顔をしかめたがボールが前線へと運ばれているのにこちらに目を向ける選手はいなく、周りにバレていないことに天馬は少し安心した。

「…痛むのか?」
「うわあっ!」

それもつかの間、いきなり背後から声をかけられ飛び跳ねるように驚いた。白竜だった。前線では剣城と白恋の真狩が激しい攻防を行っており、とうていこちらに意識は向いていない。

「み、見てた?」
「俺の責任ではあるが…監督に言うか?痛むまま続けるのも良くない、せめて冷やしたほうがいいと思うが…」
「ううん、そうかな…じゃあ、そうしようかな。」

練習を中断させるのも気が引けたが、怪我をそのままにするのも確かによくないと思い前線に向かって少し抜ける旨を叫んでからコートを出た。さくらが「えーっ!キャプテン、抜けちゃうの…」と不服そうに漏らしたが鉄角が怪我なのだから、と制止していて、しかし天馬はそう思ってくれることに少し嬉しくなった。なぜか白竜もついてきたのだが、「俺の責任だから」というので大人しく甘えた。

「真面目だよね、白竜」
「褒めてるのか?」
「褒めてるよ。いい人っていうかさ」
「ふうん…普通だと思うが」

でもなんとなく白竜の表情が柔らかくなってて、白竜ともこうやって仲良くなれたことに天馬は嬉しく思った。白竜も敵同士だったころとはずいぶん変わった。もちろん、いい意味で。

マネージャーの葵にアイシングを頼むとさっきよりも足は腫れていて、やっぱり白竜の言う通りにしてよかったと思い直した。
練習の時間も無駄にはしたくなかったけど、怪我でできなくなったら元も子もない。

練習のとき、黒岩監督はもちろんいない。ポトムリも水川もいなくなってしまったのでアースイレブンで練習するときは基本的に選手とマネージャーの葵だけだった。しかし今回はレジスタンスジャパンの引率として不動もいて、ベンチで暇そうに足を組んでいた。

「…ん、天馬か。怪我でもしたのか?」
「足、ぶつけちゃって…」
「うわっ、変色してるじゃねえか。冷やしてる間くらいは安静にしとけよ」
「サッカーは」
「バカ」

仕方なく天馬がベンチに座ると、白竜は申し訳なさそうに天馬の足を眺めた。

「すまないな…それ」
「ううん、大丈夫だよ。おれも注意が足りなかったし」
「白竜がやったのか?」

不動が横から口を挟むと、天馬が何か答える前に白竜が「そうです」と肯定した。不動はなぜかにやりと笑って、ふうん、とだけ呟く。

「そうだ、お前らさあ、アイスでも買ってこいよ。全員分。金は俺が出すから」
「えっ!」
「わかりました」
「えっ」

天馬が驚くのをよそに白竜はすぐに了承して、それを見て天馬がさらに驚く。

「天馬、…立てるか?」
「うん、歩くくらいなら大丈夫だけど…本当に?白竜はいいの」
「ああ。メンバーも暑いなかの練習で疲れてるだろうし…お前を1人でベンチに放置すると言うのもな、アースイレブンに怒られそうだ」

確かに瞬木や剣城は天馬にすこし過保護なところがあるのを思い出して、少し笑ってベンチから立ち上がった。
釣りは取っとけ、と不動監督がくれた千円札はそのまま白竜のポケットに収まり、「じゃあ、行くか」と少し小さく手を振った葵に手を振り返してそっと2人でグラウンドを抜けた。





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