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カエルトリップアモクラちゃん
ぶちぶちぶち、と皮膚が引き千切れて、明が拳を引き抜くのと一緒に中から肉と血液が噴出し、夥しい量のそれが俺たちの体に降り注ぐ。デーモンの血のシャワーを浴びながら俺たちは人間の姿に戻っていく。獣のような体毛や夜を走るための翼はなりを潜め、俺たちは「不動明」に戻る。
夜の公園だった。深い霧が出ていた。地面には先程殺したデーモンの死体が仰向けに転がっている。醜く太った、カエルのような姿だった。
明が拳を突き入れたところはぽっかりと大きな穴が開いており、そこからまだ体内に残っている肉や臓器が覗いていた。
襲われていたところを助けた女の子は既に逃げることができたようだ。正しい判断だ、と思う。もともとお礼が言われたくてしていることではない。第一、正義のヒーローなどとは言えないなりなのだ。人間の心、良心があるかの違いだけでやっている行為自体はデーモン達と何ら変わらない。虫も殺せなかった男が今では嬉嬉として敵を殺戮していると言うのだから、喜劇もいいところだ。
公園の水道で体に付いたデーモンの血液を軽く洗い流す。着ていた服は破けてとてももう着られる状態ではなかったが、しばらく待てば察知した了と飛鳥が来るはずなので、俺たちはここで大人しく待ってればいい。デーモンの死体はあっち側の工作班が片付けてくれるから放置しておく。地面に投げ捨てていた鞄から携帯している換えの下着とタオルを取り出して、それだけ身につけておく。気休め程度だが、それでも全裸よりは、見つかっても言い訳くらいはさせてもらえるだろう。
公園のベンチに明と2人で座って了を待っていると、ふと異変を感じた。体に力が入らなくなっていく。どうやら明も同じようだった。
「これ」
「お前もか?」
「デーモン…さっき倒したよな。他にもまだいたのか?」
「いや、そういう気配は感じなかったが…こうなってる以上、何も無いとは言えないだろう」
なんとかまだ動かせる体でデーモンの死体に近付く。やはり生きているデーモンの感じはしないし、足元に転がっているデーモンも完全に死んでいた。しかし近付くと体の異変は一層増している。ふと、明が何かに気づいてカエルの形をしたデーモンをひっくり返す。
「これじゃないのか」
よく見ると俺の手のひらほどもある眼球の横あたりが膨らんでいて、そこから白い膿のようなものが垂れ出ていた。
どうやらそれが霧に溶けて気化したことによって俺達の体に影響が出ているようで、というより露出したことによって直に粘膜に毒がキて頭がちかちかする。慌てて明に引っ張られて死体から離れるものの、視界は既に異常を来していた。
「あき、ら…」
倒れ込む。地面が歪んでいた。蛍光灯は七色に光り、草むらの中から無数の目玉が覗いている。情報の濁流。
すがりつくように明の体を確かめてお互いにしがみつくと、そこだけ皮膚の感覚がなくなって、まるで同じ生物になったみたいだった。
皮膚の内側の脂肪の部分が波紋のように波打つ。体が水槽になって、明と触れているところが心地よかった。
お互いの体を擦り合わせる。精神的な快楽があった。怒張した一物が下着を押し上げて、染みをつくっていた。
二人でくっついて、逃げ場のない快楽に悶えるようにお互いにしがみついていた。
≪ ≫
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