離さない離れない






これの櫂視点



三和は俗に言うアホだ。
こんな土砂降りの中を一人で疾走して帰った。
それはもしかしたら正しい選択なのかも知れないが櫂から見てみれば三和はやはりアホにしか見えない。
クラスの連中からは「三和はやはり三和だ」とか誉め言葉なのかよくわからない言葉を頂いていた。

別に早く帰ってもやることはない櫂にとって学校に居残るのも悪くないが室内練習の励む部活が多すぎたため鬱陶しく感じてすぐに帰ることを決意した。


降りしきる雨は勢いを増してきた。
自分自身雨に濡れるのは構わないが制服が濡れると明日までに乾くかどうか謎である、とりあえず櫂は通りかかった公園の隅にある屋根の下にとりあえず雨宿りすることにした。


誰一人立ち寄らない公園はある意味奇妙である。
考えることもなく、ただ周囲を見回した。


するとやたら息を切らした少年が水音を立てながらこちらに走ってきた。
よくよく見てみればそれは良くみる知り合いだった。


「先導アイチ……………」

「櫂君…? どうして……?」


ふと名前を呼ぶと、思いついたようにすぐに顔を上げて櫂の顔を見た。
あまりに予想外な人物が目の前に立っていたからか少しだけどんな顔をしていいか分からなかった。


「櫂君も傘忘れちゃったの?」

「ああ、じゃなきゃここにいないだろう」

「……そうだね…、あれ、三和君は一緒じゃ…?」

「アイツは帰った」


我ながらあまりに冷たい答えだと思いながら雨の音を聞くしかない。
話す話題も無ければ話す必要はなく、ただじっと何処かを見据えているのが一番だと悟った。

軽くアイチを一瞥すると彼は少し嬉しそうに顔を綻ばせていた。


「櫂君のお家、ここからどれくらいなの?」

「遠くはない、だが近くもない」

「家族とかは? 迎えに来てもらわないの?」

「そうゆうお前こそ迎えに来てもらわないのか…」

「連絡出来るものないし……」

「そうか」


軽く相づちを打つとまた会話は雨に掻き消された。
アイチはやたらと何かを話したそうに口を動かすもののそれは声として出てくることはなく、ただじっとして動かない。


「アイチ」

「へ……!? あ、ああ…何?」


上の空だったのか、慌てて櫂の方を見た。



「お前はいつ帰る?」

「雨が落ち着くまで……かな…?」

「そうか」

「櫂はいつ帰るの?」

「いて欲しくないなら帰る」

「そそ、そうじゃなくて! ただ気になって……」


雨は未だ振り止むことはない。
時計を一瞥すれば、既に五時を回っていた。櫂自体暇であったし、ここで一人で帰ってアイチを一人取り残したらどんな奴に襲われるか分からないという過保護心から残ることにした。

アイチは何かを思いついたのかいきなりベンチに腰を掛けた。その後、軽く櫂を一瞥した。まるで隣に座ってくれとでも言いたげだ。
櫂は少し考えた後にアイチの真横に腰を下ろす。


「あ、櫂君」

「何だ?」

「今度カードキャピタルに来た時で良いんだ、僕とまた戦ってくれないかな……?」

「お前とまだ戦う価値はない」

「あ、そう…だよね…」


いきなり思いついたようにそういったと思いきやいつものパターンである。
期待されているような顔に多少の恐怖を感じながらいつも通りの文句で断るとアイチは悲しそうに塞ぐのだ。


「お前と戦う価値はない、だがデッキなら見てやる、次ショップに行くのはいつだ?」

「えっと、明後日…」

「明後日だな」


アイチは予期せぬ言葉に戸惑いながら櫂を見つめていた。本当に予想していなかったようだ。
櫂自身何かの罪悪感に襲われた気がしたのだ。
ふとでた言葉はアイチを喜ばすには十分でアイチは目を輝かせて櫂を見つめる。

不意に見せられた笑顔に不覚にも胸を打つ、早鐘が鳴る。

ああ、なんて情けない。
そう思うしかない、そしてもう二度と傘を忘れまいと誓うのだった。



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櫂サイドの話だったり


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