離れない離さない









その日の天気予報は大いに外れた。
朝見た天気予報では快晴やら日本晴れやらお天気キャスターのお姉さんは笑顔を振りまき言っていたはずなのにも関わらず、昼を過ぎた頃から雷混じりの土砂降りである。


「うげー……、傘持って来てねぇよ、アイチ、まさかお前持ってるよなぁ?」

「貸してあげたいんだけどね、今日折り畳み傘忘れちゃったみたいで……」


悪い顔をした森川はアイチにすかさず助けを求めた。
いじめっこ気質のせいか脅し文句に聞こえなくもない言葉をアイチは申し訳なさそうな声で返した。

その言葉を聞いた森川はさぞがっかりと肩を落としていた。


行こうと思っていたカードキャピタルは足は進まず、とりあえず家に帰ることを最優先にしたい。
ずぶ濡れで店内に入れば間違いなくミサキに怒られるだろう。

あまり速くない駆け足でいつもの帰り道を走るものの打ち付けるような雨は容赦なくアイチに降り掛かる。
とうとうどうしていいかわからなくなったアイチは公園の屋根が備え付けてある場所に避難するのだった。

アイチなりに全力で走ったからか肩で息をするほどに疲れていた。


「先導アイチ………」

「櫂君……? どうして……?」


聞き慣れた声に反射的に顔を上げるとずぶ濡れの櫂トシキが立っていた。
いつものすまし顔とは異なってどちらかと言えば驚いているような顔だった。


「櫂君も傘忘れちゃったの?」

「ああ、じゃなきゃここにいないだろう」

「……そうだね……、あれ、三和君は一緒じゃ…?」

「アイツは帰った」


ぴしゃりと言われてしまい、やがては話題は尽きた。
アイチは元々話題を振るのは得意でないし、櫂も饒舌ではない。二人はすることもなく、ただ打ち付けるような大雨を見つめていた。

帰りたいのだがアイチとしては制服をこれ以上雨で濡らすのは気が引けるし、何より櫂とばったり出くわしたことが嬉しく感じた。


「櫂君のお家、ここからどれくらいなの?」

「遠くはない、だが近くもない」

「家族とかは? 迎えに来てもらわないの?」

「そうゆうお前こそ迎えに来てもらわないのか…」

「連絡出来るものないし……」


櫂は小さく相槌を打ち、また会話は終了した。
もっと聞きたいことはある再会した時に言わなかったこと、些細なこと、櫂の事情のこと。
しかし聞きたい事柄は浮かんでは消えてゆく、本人を目の前にするとなんとなく質問していいのかよくわからない。些細な質問で櫂の逆鱗に触れたくはないし、険悪にもなりたくはない。

そう思うと何にも言えなくなってしまう。


「アイチ」

「へ……!? あ、ああ何?」


頭を回転させていると、櫂が呼び掛けてきた。
あまりに不意でアイチはあまりにもすっとんきょうな声を出していた。


「お前はいつ帰る?」

「雨が落ち着くまで……かな…?」

「そうか」

「櫂はいつ帰るの?」

「いて欲しくないなら帰る」

「そそ、そうじゃなくて! ただ気になって……」


雨は未だ振り止むことはない。
時計を一瞥すれば、既に五時を回っていた。
とりあえずアイチは屋根の下にあるベンチの埃を軽く払ってから腰掛けた。
櫂に軽く視線を促すと彼は何も言わずにアイチの隣に腰を掛けて一息をつく。


「あ、櫂君」

「何だ?」

「今度カードキャピタルに来た時で良いんだ、僕とまた戦ってくれないかな……?」

「お前とまだ戦う価値はない」

「あ、そう…だよね…」


櫂と話せた嬉しさからかさりげなく対戦相手に名乗り出るもやはり返ってくる答えはいつもと変わらずの一点張りである。
つい、嬉しさで周りの判断が出来ない自分を反省して顔を下げていた。


「お前と戦う価値はない、だがデッキなら見てやる、次ショップに行くのはいつだ?」

「えっと、明後日…」

「明後日だな」


アイチは予期せぬ言葉に戸惑いながら櫂を見つめていた。
櫂は渋面を張りつけたまま、アイチにそう告げるとアイチは目をキラキラさせた。

アイチがどれほど目をキラキラさせても雨が止むことはない。
薄暗い空と春先の肌を撫でる生ぬるい空気は好きになれないが、今なら何もかも好きになれそうな気がした。





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雨の日ほど憂鬱になる今日この頃、櫂視点も書きたい


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