立てない場所
「ということで、キムラスカ側は休戦の申し出を受け入れてくれるようだ」
「そうですか、それではこちらも早速捕虜の交換の準備を進めます。ありがとうございました」

ルーク達がキムラスカとの休戦交渉に出かけて数日。
少し不安はあったが、無事に休戦となったようでフィルは内心安堵した。

キムラスカ側もこのような状態となったからには、それしかないだろうという判断のようだ。
フリングスがルークの言葉に頷き、すぐに手続きに入るべく配下に指示を出すべく、本部として使っていた家を出て行った。
それを見送ってから、フィルは仲間達に声をかける。

「お疲れ様、みんな」
「フィルこそお疲れ様。ずっと瘴気の中にいるのは大変だったんじゃないか?」
「ううん、これくらいは大丈夫だよ」
「そうだよねぇ、い・と・しの少将様が近くにいるんだもんねぇ〜」
「アニスっ!!」

茶化されて顔が熱くなる。
フィルが窘めるように名を呼ぶと、当の本人は悪びれなく笑っていた。

だがその時だった。
外で何やら物音がする。

「……、外が騒がしいわ」
「魔物の気配がするですの!」

ティアが振り向けば、その腕の中にいたミュウが身を乗り出すように外を見る。

「気になります、行ってみましょう」

ジェイドの言葉に全員が頷き、一気に外へかけ出した。
するとそこには魔物の大群が村に襲いかかってきていたのだ。

マルクト兵が必死に応戦するが、ここしばらくの疲労が祟ってか押され気味だ

「これは……ッ!」

ルークが驚きの声を上げるその隣を、フィルは駆ける。
今にもやられそうな兵を襲う魔物目がけて、腕輪を剣へと変えて一気に踏み込んだ。

「こんの……ッ瞬迅剣!!」

突きの威力に押され、魔物が兵から離れる。
その隙を逃さず、彼女は魔物と兵の間に入り剣を構えた。

「しょ、少佐……すみません……っ」
「謝罪は後でいい! ティア、ナタリア、負傷者の治療をお願い!」
「分かったわ」
「ルークとガイは前衛を。アニスは私と共に後方支援をお願いしますよ」
「了解ですぅ!」

フィルとジェイドの指示に仲間達が一斉に動き出す。
疲弊している兵達では下手をするとこの拠点事奪われる可能性が高い。

とにかく今はこの魔物達を倒さなければ。

剣を槍に変えて戦っていると、フリングスも共に戦っている姿が見えた。

仲間達と将軍がいれば乗り切れる。
そうフィルは信じていた。
案の定、徐々に魔物達は減っていく。

「一気に片付けますよ」
「はいっ!」
「唸れ烈風! 大気の刃よ、切り刻め……――」
「舞い踊れ、嵐の思念…――」
「タービュランス!」
「エアスラスト!」

ジェイドとフィルの術により第三音素が大気を切り裂く風の刃となって魔物へ襲いかかった。
範囲が広いその譜術は次々と蹴散らしていく。

「ふぅ、こんなところか……?」

ガイが額に浮かんだ汗を拭い、ぽつりと呟いた。
フィルも他に魔物がいないか辺りを見渡す。

「(もう、いないか……。あらかた片付けたもんね……)」

ふっと肩の力を抜いたその時だった。

「……ッ! フィル!!」

自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
同時に振り返ろうとしたが、何かに突き飛ばされて地面に転がった。
咄嗟に受け身を取り、何事かと顔を上げると、それはまさにフリングスが魔物に襲われ駆ける瞬間で。

フィルは大きく目を見開いて腕を伸ばす。

「将軍っ!!」

魔物の爪が彼の喉元をかすめかけた、その瞬間。
ザシュッと剣戟の音と共に、その魔物が悲鳴を上げた。

どさりと倒れ事切れた魔物の後ろには、剣を構えるセシルの姿。

「……っ、セシル……将軍……?」
「これで、貸し借りは……、無しだ」

剣についた魔物の血を払い、彼女はそういう告げる。

なぜ彼女がここにいるのか。
安全な宿にいるはずではなかったのか。
フィルの思考は停止し、ただ呆然とその様子を見ていた。


フリングスも同じように呆然としていたが、ハッと我に戻り目の前の彼女を見やる。

「どうして宿を出てきたのですか? 危険ではありませんか」
「この町が魔物に落とされれば、宿に隠れていても意味がない。それに私は軍人だ。危険を避けるわけにはいかない」
「あなたは将官なのですよ? 二等兵を助けるために危険を冒したり、敵将を助ける為に無茶をするのは……」
「貴公こそ、敵である私達を助けるために、地割れで危険な場所へやってきたではないか」
「あれは……」

将官らしくない優しさを指摘されフリングスは言葉を噤んだ。
セシルはそんな彼を見て小さく笑う。

「敵将である私を信じ、自由を与えたり……。貴公は馬鹿だ」
「……、お互い様です」

お互いに見つめ合う二人に、フィルは動くことが出来なかった。
セシルがいる場所は、自分では絶対に立つことが出来ない場所。

対等な階級、同じように部下を気遣う優しい性格。

呆然と二人を見つめる自分の後ろで、仲間達がこそりと話し合うのが聞こえてくる。

「な、なぁ、あの二人って敵同士だろう?」
「というか、フリングス将軍って実はセシル将軍に惚れて……?」
「ガイ! その先を言ったらどうなるか分かってるよね!?」
「ご、ごごごめんっ! だから近づかないでくれ〜!」

ガイが怯えてルークの後ろに隠れるのを見て、アニスは憤慨して腰に手を当てた。

「それにそれに! キムラスカとマルクトの将校だよ!? 無理に決まってんじゃん。フィル、気にすることないよ!」
「しかし、どちらかが軍をやめれば見込みがない……、訳でもないと思いますが」
「………ッ!!」

ジェイドの言葉に、動揺が広がった。
フィルは胸に手を当てて顔を伏せる。

「(やめて。やめて。……――その人は、その人だけは…!)」

フリングスがセシルを見るその横顔が、とても優しくて。
フィルは己の考えている最悪の思考から離れる事が出来なかった。




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