赤。見渡す限りの赤。
人々の叫ぶ声、猛る産声をあげて燃え盛る炎。
身体に感じる熱さだけが未だに頭に残る。
尊敬していた父。
守らなければいけないこのホドの主。
霞がかる目には、ぼんやりとしか映らない。
鎧が重なる音。
騒ぐ声。
それが徐々に遠ざかる。
―――ああ、わたしはここで死ぬのか…
次に目が覚めたのは暖かなベッドの上。
何人もの人がわたしを見下ろしていた。
でも、霞がかった視界は誰かの判別がつかない。
目を覚ましたわたしの顔を見て、ひげの人が涙を流しながら抱きしめてくれた。
確か…父と交流があった人。
『この子を…、わしの孫とする!』
さらさらな髭をわたしの頬に当てながら、彼は言った。
反対する者は誰もいなかった。
震えていたその暖かな腕は、安心する。
ああ、そうだ…。
この人は、マルクト軍元帥のマクガヴァン様…。
父と仲の良かった彼は、わたしを受け入れてくれた。
ホドがキムラスカに襲われたときに、すぐに駆けつけることが出来なかったその詫びだといって。
まるで自分の本当の孫のように扱ってくれた。
ホドの災厄を生き残ったわたしの新しい家族となってくれた。
その恩返しに、わたしも兵となることを決めた。
あれから十数年、
わたし、フィル・アイラスはマルクト軍の少佐まで上り詰めることになった。
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