夢を見た。深い深い闇。沼地。
必死に身体を、手を、伸ばしても届かない。
目の前で母親が、血に染まる牙で白い肉を食われているのをただ見ているしかなかった。
目の前で父親が、赤く染まった手で四肢をもがれていくのを黙って見ているしかなかった。
震える身体をしっかりと抱きしめて、ただ息を殺す。母が隠れていろと言って、わたしを押し込んだこの押し入れから出ることさえ出来ない。
鬼が両親を食べるその音だけを耳にして。鬼が両親を食べる度に聞こえる両親の悲鳴を耳にして。
押し入れの僅かな隙間さえ、閉じたいのに身体が動かない。ううん、動かせない。
だって、動いたりして、音がしたら、鬼はきっとわたしを見つけるから。
父さんのようにバラバラにされて、母さんみたいに肉を食われるんだ。
ふと視界の端に神棚が見える。
父と母が毎日欠かさずお祈りに使っていた神具が見える。
ああ、この世に本当に神様なんて存在するのだろうか。
ううん、きっと……神様なんていない。
ううん、実は神様は本当にいて、父さんと母さんは悪いことをしたんだ。
だから、天罰を受けてるのかな……?
村の人たちも、きっと……そう、悪い事をしたんだ。
そうでも思わなければ、幼いわたしの心はきっと耐えられなかっただろう。
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