ふたりぼっち | ナノ




みっつめ
   └三十三



「お、思いっきりやりすぎたでしょうか…」



じんじんと痛む右手を見つめながら、やや不安になっていると。

薬売りさんはクスッと楽しそうに笑う。




『いや…見事でしたよ?あの旦那さんの顔…ふっ』

「…く、薬売りさん…」


(絶対別の意味で楽しんでる…)




がっくりと項垂れていると、不意に薬売りさんに右手を掬われた。

楽しげに指を絡ませると、ぎゅうっと握り締める。



「???」



いつもなら手を差し出すのに…と急な出来事にどぎまぎしていると。




『…手を離したら結に平手打ち喰らうようですから』

「ちょ…!それは…」

『あぁ、背中も向けたらいけないんですよね』

「もう!!薬売りさん!!」



真っ赤になる私を見て、薬売りさんはご機嫌な様子…

何となく悔しいような気がしながらも、ちょっと嬉しくて私はそのまま薬売りさんと手を繋いで歩いていった。




(そう言えば…)



薬売りさんも、旦那さんのように私の知らないところで誰かと逢引したりしてるのだろうか…

いまはほとんど私と一緒にいるけれど…


もしそんな日がきたら、私もろくろ首になってしまうのだろうか…?


嫉妬に狂って、夜な夜な薬売りさんを探したりするのだろうか。



好きな人の裏切りを知るのと、自分のどろどろした嫉妬の感情を知られるのとどっちが苦しいんだろう…?




『……結?』

「っ!!」



ぼんやりと彼の横顔を見ていたら、不意に覗き込まれる。

不思議そうに私を見ていた薬売りさんは『あぁ』と何かを思い出したように笑った。



『そう言えば』

「はい?」

『ぶちギレた結の顔も…なかなかそそられ…』

「薬売りさん!!!!!」



人の気も知らずに薬売りさんは楽しそうに笑う。



(まぁ…少しくらいは…)



お互いの知らない時間があってもいいのかもしれない。




「…バレなければいいってもんでもないけど」

『…え?』

「何でもないです…」




まぁ…まだありもしない心配に気を揉んでも意味はない。

でもできればそんな日がずっと来なければいい…


そんな事を思いながら、私は繋いだ手にキュッと力を込めた。


― みっつめ・了 ―


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